ハロー先端科学(大学新聞)

新構造の人工骨を開発 骨の再生期間短縮へ

代表者 : 坂根 正孝  

 骨折などで損傷した骨を修復するため、外科手術では損傷した部分に、ハイドロキシアパタイト=※=などの物質から作られる「人工骨」を埋めることがある。人工骨は体内に一生残るものと
イメージされがちだが、損傷した骨の再生を手助けした後は分解され、溶けて無くなる。坂根正孝准教授(医学医療系)らは2009年、従来よりも短期間で骨を再生させる人工骨の開発に成功
し、注目を集めている。
 一般的な人工骨には無数の小さな穴が開いており、体積の70%が空洞だ。骨の損傷部分に人工骨を埋め込むと、この穴に骨を再生させる細胞(骨芽細胞)が流れ込む。これにより人工骨の内部で、新たな骨が作られる。またこの過程で人工骨は徐々に分解され、最終的に新しい骨だけが残る。人工骨は、新しい骨を作るための「土台」だ。

 これまで使われていた人工骨は、骨芽細胞が通るための空洞が複雑に入り組んでいた。そのため骨芽細胞が空洞の奥に流れ込むまでに時間がかかっていた。そこで坂根准教授らは、細い管を液
体に近づけると液体が管の中に吸い寄せられる「毛細管現象」に注目。人工骨の内部に、無数の細い管状の空洞を平行に開けることで毛細管現象を発生させ、骨芽細胞をスムーズに人工骨の奥深
くに流れ込ませた。
 坂根准教授らは05年から、物質・材料研究機構や企業などと共同研究を開始。09年に厚生労働省の許可を得て、最初の手術を行った。昨年11月に患者の経過を診断。その結果、人工骨の内部で順調に新たな骨が作られていた。坂根准教授は、「骨の再生には時間がかかるため、手術が成功したかは術後数年して初めて分かる。骨がうまく再生したか、少し不安だった」と当時を振り返るが、成功に安堵していた。
 一般的な外科手術と同じように、人工骨を埋め込む手術にも感染症などリスクがつきまとう。術後も慎重な経過診察が必要だ。失敗は決して許されない。「骨の損傷の仕方や部位は患者によって
違う。一人ひとりにあった人工骨を作らなければならない。どうすればより安全になるのか、挑戦を続けている」と坂根准教授。骨太の「研究者魂」が、多くの患者の治療をしっかりと支えている。(姉崎信=心理学類2年)
 ※ハイドロキシアパタイト=骨や歯の主成分の一つで、ヒトの骨の約6割を占める。人工骨や医療器具などの材料に広く使われるほか、健康食品や化粧品にも含まれる。