聴(Tsukuba Communications)

グローバルリーダーの条件 多様性の中で柔軟に行動できる人材を育てる

ビジネスサイエンス系 永井 裕之 教授

・スペシャリストとしてのグローバルリーダー
 産業能率大学が2017年に実施した調査によると、日本企業の新入社員の6割が、海外で働くことを望まないそうです。しかし企業自体はグローバル化のなが
れに逆らうことは出来ません。そして、環境や文化の異なる土地でビジネスを成功させるには、その原動力となる優れたリーダーが不可欠です。
企業が海外に進出する際、国内でリーダー実績のある人が、現地で指揮を執るのが当然のように思われます。しかし国外に出たとたん、それまでの常識や
慣習が通用しない状況に直面することは少なくありません。その時いかに臨機応変に、対応できるかが大切です。日本でも組織のトップを外部から登用す
る例が増えていますが、社内の定期的な人事異動と年功序列により育成されたマネージャーにはない資質を備えたトップリーダーが求められていることの
証といえるでしょう。グローバルリーダーはスペシャリスト。その育成には専用のプログラムが必要なのです。

・リーダーシップを学術的に捉える
国内と海外の一番の違いは多様性です。リーダーは、文化や習慣、考え方の異なる人々から成る組織をマネジメントし、それぞれの能力を見際め適材適所
で活用しなくてはなりません。想定外のトラブルにも柔軟に対応し、目標に向かっていく精神的なタフさも必要です。大切なのは、不確定要素の多い環境
の中で、柔軟に考え、やりぬく力。これは従来の日本型の画一的なエリート像とは異なるものです。

 このような人材像は学術的な実証研究から導き出されています。すでにグロ ーバルリ ーダーとして高い評価を得ている人たちを対象にした調査結果から、
異文化環境で直面した問題の解決のために有用なコンピテンシー (適性や行動パターン)には、ある共通性が見えてきます。
これらのコンピテンシーは、4つの次元:S (Search問題発見)、P(Plan解決策立案)、 D(D o実行)、L(Learn学習)にまとめることができます。さらに、
この4つの次元を効果的に実行するためには、「メタ認知」、すなわち自分の置かれている状況や行動を客観的に認識する能力が不可欠です。優れたリーダー
は無意識のうちにこれらを繰り返し実践し、経験値を高めながら、多様性や変化への対応力や、探求的・自律的に問顆解決に臨む姿勢を獲得しています。

・グローバルリーダーの育て方
 SPDLサイクルやメタ認知といったコンピテンシーは、机上で学ぶものではなく、半分は生まれながらのパーソナリティ、もう半分は環境によって形成される
と言われています。従って、グーローバルリーダー育成の鍵は、日常的にグローバルな環境に身を置き、実践的な訓練を積んで、意識的にこれらのコンピテ
ンシーを身につけることです。
 日本では、そのようなプログラムを提供するのは大学院、いわゆるビジネススクールです。本学の社会人大学院で開設している国際経営プロフェッショナル
専攻もその一つ。約30名の社会人学生の3分の1程度、教員の過半数が外国人で、授業も英語で行われます。さらに海外に10校ほどある提携校へ短期留学して
授巣に参加したり、シリコンバレーの企業などを訪れ、現地の人々とのディスカッションを通して、グローバル感覚を養います。修了生の多くが、実際に海
外赴任をしたり、転職してキャリアアップを図るなど、着実にグローバルリーダーへの道を歩んでいます。

・早期教育のすすめ
 しかしながら、社会人になって初めてこのような教育の必要性に直面するというのは、学校教育にも課題がありそうです。確かに現状の学校教育には、多様性
やグローバル感覚を学ぶカリキュラムは含まれていません。SGH (Super Global Highschool)指定校でも、グローバル活動の多くは総合学習や課外活動に位置付
けられており、グローバル対応能カの学習時間は十分とはいえないでしょう。
高校生対象に調査をしたところ、SGH指定校でグローバル活動のカリキュラムを主体的に選択する生徒は、そうでない生徒に比べて海外への意識が格段に高く、
卒業までにその差は顕著に広がります。多くの大学がグローバル教育に力を入れていますが、それでは遅いのです。もっと早い段階で海外交流や体験活動の機会を提供することが求められます。
 そこで近年は、本学附属学校教育局特命補佐として、高校生向け「グロ ーバルリーダーズ・プログラム」の開発に注力しています。北米やアジアの大学と協働し、英文のアカデミックレポートの書き方やプレゼンテーション技法を学んでから、海外の大学キャンパスで研修し、その成果を英語で発表するコースです。研修当初はたどたどしい英語でディスカッションしていた生徒たちが、帰国後には堂々とプレゼンテーションできるまでに成長します。

・オリジナリティーを評価する
 このようなプログラムを全ての高校生に受講してもらうことは無理だとしても、資質や意欲のある生徒がチャレンジすれば、その機会が得られるような環境整備は進めるべきでしょう。例えば、国立大学の附属高校として、各都道府県に1校ずつインターナショナルスクールを設置すれば、通学や学費面でも次世代グローバル教育はずいぶん変わるはずです。
インターナショナルスクールはもともと、帰国子女や一時的に日本に赴任している外国人の子弟のための学校です。教育方針も日本の学校とはかなり異なっており、正しい答えよりも自分の考えをしっかりと述べること、オリジナリティーが評価されます。一人ひとりの個性、すなわち多様性を尊重するということです。
そこで問われるのは教育メソッドです。模範解答とは別の軸でさまざまな個性を適切に評価し、多様性に富んだ教室をマネジメントすることが求められますから、教員養成においても新しいプログラムが必要です。そのひとつとして本学は、平成29年度、30年度の文部科学省「新時代のための国際協働プログラム」で採択された事業により、高校教員のための研修プログラムの開発に着手しました。海外の大学と協働して、日本の高校用に英語による授業案を作成し、それを実際に高校生向けの海外研修プログラムとして開講する、というサイクルモデルの実践を進めています。雇用が流動化し、転職や起業する生き方も許容される社会になってきました。その先にあるのが多様性や変化にあふれた世界。グローバルリーダー育成は一層、重要性を増しています。