研究者のみなさまにおかれましては、科研費の審査結果を踏まえ、それぞれの研究計画の着手や見直しを進めておられる時期かと存じます。
2026年3月23日、筑波大学において「つくばではじめる『知』の創発と促発―基盤研究から大型研究へ」をテーマとした研究者交流会が開催されました。本イベントは、分野や専門領域を越えた研究者同士の出会いと対話を通じて、新たな研究領域の創出と大型研究への発展を後押しすることを目的として実施されたものです。
第1部の講演およびパネルディスカッションでは、「研究者がステップアップする要因」「共同研究が立ち上がる背景」「科研費獲得のポイント」といった観点から活発な議論が行われました。これらの内容を通じて、つくばにおける研究文化やネットワークが、どのように若手・中堅研究者の成長を支えているのか、その一端が明らかになりました。
■ 筑波だからこそ生まれる“分野横断研究”の可能性
遠藤副学長の開会挨拶では、筑波研究学園都市の最大の強みとして、「分野や組織の垣根を越えた研究者同士の出会い」が強調されました。近年、日本の研究力低下が指摘される中、創発的研究や国際性を重視する新制度が次々と立ち上がっています。しかし、それらを実際に推進するのは、研究者同士の偶発的な出会い、価値観の交換、異分野的な発想の転換です。
筑波大学と周辺研究機関の連携組織「筑波研究教育機構構想協議会」が発足する日に本イベントを開催し、つくば地域全体で学際連携や大型研究創出が加速することを期待していますと述べられました。

■ 研究者による講演① 善甫先生(システム情報系)
■多分野を渡り歩くキャリアが生んだ独自性
善甫先生は、物理 → 社会工学 →音響工学→ 産総研ポスドク(サービス工学) → 筑波大学助教の経歴を持ち、「つくばの空気を吸いながら育った実験的モルモット」と自身を表現されます。根底には“理解し、最適化し、ハックする”というエンジニアリング志向があり、専門分野を越えていく姿勢が特徴的な研究者です。
■ PTSD治療 × 音研究という新領域の創出
研究室では、音響刺激を用いた新たな知覚変容技術・治療技法の開発に取り組んでいます。脳科学者、臨床心理士、医師など、多様な領域の研究者が参加する学術変革Bプロジェクトは、もともと学生時代の知人との雑談がをきっかけで縁がつながったというに始まったという偶発性を持っていました。
■ 採択の鍵は「掛け合わせ」と「軽さ」
• 分野の掛け合わせによる希少性
• 多様な専門性を意図的に集める“ダイバーシティ感”
• 成功プロジェクトの構造を模倣するトポロジー思考
• 複数の有力研究者からのレビュー
• 「声をかけられたらまず動く」という機動力

善甫先生は、「とりあえず打席に立つ」ことを強調されました。大型研究へのステップアップは、ひとつの成功よりも「挑戦の数」によって実現することを示唆する講演でした。
■ 研究者による講演② 佐々木先生(人間系)
■ 現場の支援実践から研究テーマが生まれる
佐々木先生は、発達障害の学生支援や合理的配慮に長年携わる“支援研究者”です。研究テーマは、学生支援の実践現場で生まれる課題を起点に発展し、調査、技術導入(チャットボットなど)、効果検証といったサイクルで深化しています。
■ 若手 → 若手再挑戦 → 基盤B → 基盤Aへ
育児休業期間と申請書作成が重なりつつも、申請書の改善と継続提出を行い、確実にステップアップを果たされました。
■ 佐々木研究室の強み
- 実践現場に根ざした課題設定
- 分担研究者としての経験から得た申請書作成力
- 社会実装志向の明確な研究計画
- “使い勝手の良い研究者”として他分野からの信頼を獲得

■ 研究者による講演③ 涌水先生(医学医療系)
研究者による講演③ 涌水先生(医学医療系)
■ 在宅医療・ケアラー支援の最前線
涌水先生は、小児の在宅療養家族の負担軽減に取り組む研究者で、IMモデルに基づき、ニーズ分析、物差しづくり、プログラム開発、効果検証、社会実装までを一貫して行っています。
■ 市民100名超のサポーターが関わるプロジェクト
全国4,000〜5,000家族を対象とした大規模調査に支えられたリモートケアシステムは、看護・行政・当事者・市民ボランティアが協働する稀有な取り組みです。
■ ステップアップのポイント
- 一貫したテーマと継続的な実績蓄積
- 全国規模の多機関連携
- 社会的インパクトが強いテーマ設定
- 学会支援制度を活用したネットワーク拡大

■ 研究計画最終年度“前年度”応募制度の仕組み 外部資金課 藤元課長
多くの研究者が科研費の申請タイミングを「最終年度」に合わせます。しかし、そこで不採択となると、翌年度は研究費が途切れてしまう可能性があります。このリスクを避けるために設計されているのが 『前年度応募制度』 です。
• 研究期間4年の基盤B研究の場合
→ 最終年度(4年目)ではなく 3年目に次の科研費へ応募できる。
• 採択された場合
→ 翌年度から途切れなく研究を継続できる。
• 不採択の場合
→ 最終年度(4年目)に“もう一度”応募が可能。
さらに藤元課長からは、2026年度より始まる「科研費セーフティネット」についても紹介がありました。これは、大型種目に挑戦する研究者を継続的に支援するための新しい仕組みで、大学全体として“挑戦できる環境”を整備する意図があります。大学本部と各部局が 50:50 の割合で予算を出し合い、研究者の再挑戦を支えます。学術変革B、挑戦的研究開拓、基盤Aなど上位区分へ挑戦した研究者が想定されており、藤元課長は「大型研究への挑戦が筑波大学全体の研究力を押し上げる」と語り、大型研究費獲得への“挑戦文化”を支える制度であることを強調しました。

■ 科研費制度の“全体像”をどう捉えるか── 研究マネジメント室からの情報共有
研究戦略イニシアティブ推進機構研究マネジメント室櫻井室長からは、科研費制度の構造と、大学がどのように研究者を支えていくかについて、より大きな視点からの説明がありました。まず提示されたのは、科研費ピラミッドを「緑(基盤研究)」と「ピンク(挑戦的・学術変革)」の二つの階層性として理解する視点です。緑領域は:基盤研究(C・B・A・S)で、研究の深化・専門性の王道ルートです。ピンク領域:挑戦的研究・学術変革B/A既存の区分を越える“境界領域の開拓”を求められるルートです。文科省は今後、この “ピンク領域” の強化 を進めていく傾向にあると説明がありました。
また、39歳以下の研究者は基盤Cと挑戦的研究の両方に応募可能となります。これは、若手研究者に対して「境界を越えた研究テーマを育ててほしい」という国のメッセージでもあり、筑波大学としても支援強化の対象として位置づけています。
それは、「次世代の新領域リーダー育成」です。異分野の研究者を束ね、学術変革BからAなどの境界領域型プロジェクトを主導でき、国際連携・地域連携を行える研究者を育成することです。櫻井室長のお話からは従来の基盤研究の延長線上での研究費獲得だけではなく、より大型研究へ挑戦する姿勢がますます重要になることが強調されました。
学内シードファンド:はばたけ共創の翼!つくば発・URAがつなぐ 学際シーズ発掘プログラム」
筑波大学および筑波研究学園都市に位置する大学・国立研究開発法人・企業等の研究資源(以下、「つくば地域の研究資源」)を結集し、次世代研究者による挑戦的かつ学際的な基礎研究の創出を目的とした研究提案に活用できる学内助成制度が紹介ありました。
• 研究シーズ発掘型(4件:上限100万円/件)
• 異分野連携拡大型(5件:上限200万円/件)
• 研究実施期間:2026年10月~2028年2月(予定)
筑波大学は、挑戦する研究者を応援する制度と、研究を育てるネットワークを強化し続けてゆきます。これらの制度を積極的に活用し、次のステージに向けた道筋をぜひ描いていただきたいと思うと櫻井室長は述べました。

■ 全体質疑:研究アイデアとアイデアを“研究に落とし込む”プロセス
全体質疑の最初の質問は「いつ、どのように新しいアイデアを思いつくのか」という、研究の根幹に触れるものでした。
佐々木先生は、まず「1つの研究テーマを進めると、どうしてもアプローチしきれない部分が見えてくる」と語ります。BHEで障害学生支援を行う日常の業務では、現場から上がる細かな“困りごと”が研究的な問いへと自然につながると説明しました。業務と研究が地続きであるからこそ、現場の違和感がそのまま次の研究テーマの種になるのだと見解を述べました。
一方、涌水先生は、同じ対象を追い続ける中でも、病棟・外来・地域など文脈が変わると全く異なるニーズや困難が見えると説明しました。「この子にはどうアプローチできるか」「この家族にはどんな支援が必要か」と考える癖がついており、その積み重ねが新たな研究の切り口を生むのだと語りました。
続いて善甫先生から、佐々木先生と涌水先生に
「思いついたことを研究に落とし込むとき、どれくらいの精度で研究の構造が見えているのか?」と踏み込んだ質問がされました。
佐々木先生は、「研究視点が自分の方法論に馴染んでいるため、大まかな方向性は自然と描ける」と述べます。しかし、他者とデータを見たときに“見え方の違い”が浮き彫りになり、そこに新しい発想の糸口があると説明しました。
涌水先生は、医療従事者など多様な共同研究者が周囲にいるため、「こういう仕組みが必要」と伝えると、それがすぐに実装可能な形になって返ってくると述べました。自分自身のアイデアと他者の専門性が掛け合わされることで、研究構想が加速するプロセスが語られました。

■ 専門性が高い分野は、どうやって研究を広げるのか
後半は、特に基礎系分野の研究者が抱える悩みが焦点となりました。参加者から「社会課題と距離のある専門分野では、異分野連携をどのように広げれば良いのか」という率直な問いが投げかけられました。
これに対し、数理物質系の山本先生は、ご自身でも「どの分野の研究者をどう巻き込むべきか悩んでいる」と前置きし、「まずは自分の専門分野の学会や研究会を基盤にネットワークを構築することが現実的だ」と述べました。まったく面識のない研究者に突然アプローチするのはハードルが高く、まずは既存のつながりから徐々に広げることが重要と語りました。
また、数理物質系の梅田先生は、基盤研究の申請においては「多機関の連携」が採択の後押しになる一方で、初期段階で無理に異分野を入れ込むより、まずは“自分の専門性を強く打ち出す申請”を心掛けたと述べました。結果的に、強い専門性を軸に据えつつ、他機関の研究者を巻き込むことで申請が通った経験が共有されました。
ポイントのまとめ(研究マネジメント室外部資金獲得支援チームより)
第1部で議論された内容から研究マネジメント室外部資金獲得支援チームでは以下3つのポイントをまとめてみました。
- 科研費ステップアップのポイント
- 共同研究が生まれるきっかけ
- つくばが育む「分野・領域を越える研究者」像
■ 科研費ステップアップのポイント
① 一貫した研究テーマの深化
② 異分野の掛け合わせによる希少性
③ 行動量(打席数)
まず応募する/改稿し続ける/声をかけられたら動く
④ ネットワーク形成
知人、学内、学会、企業、市民までの広い連携が基盤になる。
⑤ 社会的意義・実装可能性
社会課題と研究計画の結びつきが評価につながる
■ 共同研究が生まれるきっかけ
① 偶然のつながり(Weak-ties)
学生時代の友人、久々の連絡等の弱いつながりから大型研究アイデアが生まれることも
② 現場の課題(Problem-driven)
日々の業務・支援現場で見えてくる“困りごと”がきっかけに。
③ 学会やイベントによる出会い
出会いの「場」が研究者を結びつける。
④ 一般市民等の当事者(研究対象者)との連携
当事者(研究対象者)の存在が、研究の社会的意義と実装の必然性を強め、協働者が広がる。
⑤ 学内ネットワーク参加
分担研究者として参加することで、他研究者との関係性の理解の他、申請書を“書く力”が育つ。
■ つくばが育む「分野・領域を越える研究者」像
今回の交流会の第1部から理解できたことは、以下のようなつくばという環境が育てる研究者像です。
- 他分野と自然に混じり合う“交差性”
- 実践と研究が行き来する研究スタイル
- 社会課題に応える研究テーマの必然性
- 組織横断・地域横断のネットワークの広がり
これらが重なり、研究者が基盤研究から大型研究へとステップアップしてゆくプロセスが理解できました。第1部の講演と議論は、筑波大学とつくばという地域の特殊性が持つ可能性と、研究者が成長していくプロセスを可視化するものでした。
筑波大学のあるつくば研究学園都市は、今後も様々なレイヤーの横断的な協働を通じて、多様な研究者の挑戦と発展を支えていくことが期待されています。第2部のネットワーキングセッションのレポートも近々公開いたします。
学内の方はCOTREチャンネルから動画をご視聴いただけます
https://ura.sec.tsukuba.ac.jp/archives/7498
