リサーチユニット総覧(Research Unit Magazine)

極微細領域の磁性研究と 実用化への発展
ナノスピンリサーチユニット

Sharmin Sonia

キーワード: スピントロニクス、磁気記録、省エネルギー、元素戦略

25kita01 電子にはスピンと呼ばれる性質があり、原子を構成する電子のスピンの向き(上向き、下向き)と個数により、鉄(Fe)などの元素の磁性が発現します。工学的にスピンと電荷の両方を利用する分野がスピントロニクスと名付けられ、固体物性の一分野となっています。本リサーチユニットでは、極微小領域のスピンを精密に制御して新しい特性を生み出し、さらに電流や抵抗を制御したり、逆にスピンを電流で制御したりして新しい材料系を生み出そうとするものです。ユニットには、磁化反転の高時間分解能計測、半導体とスピンの接合、理論的なスピン伝導、さらには磁性薄膜形成を研究対象とするメンバーが含まれ、基礎から実用化まで広範囲な内容を扱っています。

 

磁気記録媒体への応用

図1:スピネル強磁性体のイオン照射によるパ ターン形成の例。(磁気力顕微鏡写真) マグネタイト薄膜にKr イオンを照射し て、図の明るい部分を非磁性化した。

図1:スピネル強磁性体のイオン照射によるパターン形成の例。(磁気力顕微鏡写真)
マグネタイト薄膜にKr イオンを照射して、図の明るい部分を非磁性化した。

 日常生活で馴染みの深いハードディスクは磁性材料が基本となっています。従来型の面内方向に磁性をもつものでは、1 ビットのサイズが100 nm □程度であったものが、磁性を面内に垂直にした垂直磁気記録では1 ビットあたり10 nm□オーダーになろうとしています。ここまで微細化(高密度化)すると、磁化が(室温でも)熱エネルギーで揺らぎを生じて、エラーを起こしてしまいます。このような極限領域でも安定動作させるためには、材料、プロセスの基礎から研究開発を行う必要があります。材料では貴金属を使わないフェライトの利用、プロセスでは材料自身による自己組織化の利用やイオン照射技術の応用などが考えられています。ユニットでは現在使用されているCoCrPt 合金や次世代の材料と考えられるFePt 合金のようなPt を含む材料に替わる材料として、記録材料として十分な性能を持つCo フェライト(CoFe2O4) 薄膜を開発しました。図1 には、Kr イオンを照射したマグネタイト(Fe3O4)薄膜を示しますが、明るい部分が非磁性化されていて、この手法でスピネルフェライトのビットパターン化ができることが分かります。研究段階ではパターンのサイズが大きく、実用に至るにはさらなるパターンの微細化と材料の選択が必要です。このような新材料開発技術を実用化レベルにするには、マスプロダクツ技術を有するメーカーとの共同での研究開発が必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

磁性粒子の医療への応用やスピントロニクス

図2:ガン治療用に開発した高 い発熱能力を持つ楕円板 状の磁性ナノ粒子。

図2:ガン治療用に開発した高い発熱能力を持つ楕円板
状の磁性ナノ粒子。

 磁気記録媒体は、薄膜構造を基本にしています。本ユニットでは、次元数を下げたナノ粒子をスピンを有する材料で作り、その応用を試みています。図2 には、Fe3O4 で構成される直径20nm のパーティクルを示します。このパーティクルにガイド分子を付加させて、特定の細胞(癌細胞)に到達させることが可能となります。この特定部位を含む組織を磁場中に置くことにより、局部的に高温発熱させ、癌細胞を焼ききってしまう応用展開が考えられています。ここでは、磁性を有する材料を磁場中に置くことで発生する電流が熱に変換する基本原理を利用しています。ユニットでは1g あたり1 kW の発熱が可能な高性能発熱粒子を開発しました( 図2)。
 また今後、大きな研究の広がりが期待されるスピントロニクス分野でも、ユニット内のメンバーは精力的な研究を行っています。磁石の運動の基本原理を探ることが可能になる1000 兆分の1 秒の電子スピン運動を捉える顕微鏡の開発(重川グループ)や新しいエレクトロニクス素子を目指す半導体スピントロニクス(黒田グループ)、窒化物スピントロニクス(末益グループ)、理論(佐野グループ)の分野で成果を上げています。

 

 

社会への貢献・実績

● Pt を含まないハードディスク記録材料の実用化
● Co フェライト薄膜で実現した高い磁気異方性の発表
 ( Applied Physics Letters誌、および新聞発表)
● 元素戦略プロジェクト研究
● 大学院生が2014 年磁気学会での講演賞、研究員が応用物理学会のポスター講演で受賞