リサーチユニット総覧(Research Unit Magazine)

がん細胞の代謝を利用して がんを見つけ出し、治療する
腫瘍特異的ヘムーポルフィリン代謝を利用した診断・治療法開発リサーチユニット

代表者:松井 裕史    
他のメンバー:松村 明  山本 哲哉  西山 博之  及川 剛宏  兵頭 一之介  金子 剛  長崎 幸夫  
キーワード: 腫瘍特異的ヘム- ポルフィリン代謝、光化学診断法、がん治療法、活性酸素

48matsui01 日本をはじめとする先進国では高齢化を迎えて、脳血管障害や心臓冠状動脈疾患等の原因である動脈硬化の患者が急速に増加しています。動脈硬化の治療には血小板を固めないようにアスピリン等の薬物を投与します。その為、この患者ががんなどの別の疾患を発症すると、出血を伴う手術が困難となります。このような背景の下、現在見直されているがん治療としてレーザーなどを用いた光化学療法があります。低侵襲で出血の少ない治療が求められているのです。

 

 

 

 がんの光化学療法では、がん細胞に集まるポルフィリンという蛍光色素にレーザーを当てて活性酸素を発生させ腫瘍細胞を壊します。正常細胞ではポルフィリンは鉄分子と結合しヘムという物質に代謝されますが、がん細胞では代謝酵素が失活しているためにポルフィリンが蓄積します。本ユニットではこの蛍光物質の蓄積機序を解明することで、がんの診断・治療に役立てようとしています。ポルフィリン前駆体の増減により蛍光物質の蓄積を制御し、蛍光を強めてがんの領域診断に役立てることや、蛍光物質にレーザーを照射した際に発生する多量の活性酸素を利用してがん細胞を特異的に殺傷することが実現します。

図1:ALA はポルフィリンとしてがん細胞に蓄積する。 これにレーザーを当てると細胞傷害性の高い活性 酸素が発生する。

図1:ALA はポルフィリンとしてがん細胞に蓄積する。これにレーザーを当てると細胞傷害性の高い活性酸素が発生する。

図2:がん手術検体の組織像(赤枠は組織 免疫染色像)蛍光像で赤色蛍光を放っ ている部分と活性酸素種を産生する iNOS の局在が一致している。赤色蛍 光部ががん部位である事はHE 染色か ら確認する事が出来る。

図2:がん手術検体の組織像(赤枠は組織免疫染色像)蛍光像で赤色蛍光を放っている部分と活性酸素種を産生するiNOS の局在が一致している。赤色蛍光部ががん部位である事はHE 染色から確認する事が出来る。

 

様々な領域において、がん代謝に着目した光化学診断が始まっている

  本ユニットは脳神経外科、消化器内科、腎泌尿器外科に横断したチームです。脳神経外科領域では、脳腫瘍の手術の際に光化学診断を用います。患者がアミノレブリン酸(ALA)というポルフィリンの前駆体を飲むことで腫瘍患部が光り、それを手掛かりに顕微鏡を見ながら光った部位だけを切除します。
 泌尿器領域では、ALA の摂取後の尿を調べます。尿中にALA から生成されたポルフィリンが入っていたら、尿が赤く光ることで膀胱がんのスクリーニングが出来ます。また赤色を頼りに膀胱鏡で治療を試みます。
 がんの代謝を見る診断・診療は世界の中でも日本がリードしている領域であり、更に発展させていくことを目指しています。

 

 

 光化学診断の可能性を広げる新しい取組み

 新しいチャレンジとして循環腫瘍細胞の分離に取組んでいます。循環腫瘍細胞は血管の中を循環しており、がんの転移メカニズムや薬剤耐性機序などを紐解くものと言われていますが、この分離・培養が難しく世界中の研究者が挑んでいます。本ユニットでは、細胞表面に標識を付けて分離するのではなく、ALA を作用させ光った細胞を回収するという方法の開発にベンチャー企業と共に取組んでいます。また、異分野とのコラボレーションにより、新しい光線力学療法の材料を藻等の植物から合成するといったことにも取組んでいます。

 

社会への貢献・実績

● 日本酸化ストレス学会フリーラジカルサマースクール開催(2012 ~ 2015 年度毎年開催)