リサーチユニット総覧(Research Unit Magazine)

極寒の南極大陸から挑む銀河の 形成、進化の解明
数物連携による南極天文学の推進リサーチユニット

宮本 祐介 野口 卓 関本 裕太郎 明連 浩昭 田井野 徹 成瀬 雅人 粟田 光樹夫 市川 隆 高遠 徳尚 久野 成夫

キーワード: 天文学、宇宙物理、逆問題、スペクトル、テラヘルツ波

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 南極といえばブリザードと呼ばれる激しい吹雪を連想される方もいて、望遠鏡の設置計画に驚かれるかもしれません。しかし南極大陸の内陸部、標高3000mを超える高原地帯は晴天率が高く風も弱い安定した気候であり、さらには地上で唯一、テラヘルツ波による天体観測が可能な場所なのです(図1)。現在、計画されている南極10mテラヘルツ望遠鏡が目指すのは、生まれて間もない銀河を探し出す遠方銀河の大規模広域サーベイ観測です。銀河がいつどのように生まれたのか、南極からの宇宙観測により現代天文学の重要課題解明に挑戦するリサーチユニットです。

図1:昭和基地から約1000 キロメートルの内陸部には標高 3000 メートルを超える高原地帯が広がっている。右 は南極10 mテラヘルツ望遠鏡の完成予想図。

図1:昭和基地から約1000 キロメートルの内陸部には標高3000 メートルを超える高原地帯が広がっている。右は南極10 mテラヘルツ望遠鏡の完成予想図。

 

遠方銀河の探索から銀河誕生の謎にせまる

 
図2:ドップラー効果のため、遠方銀河はテラヘルツ波で明るく観測される。

図2:ドップラー効果のため、遠方銀河はテラヘルツ波で明るく観測される。

銀河の光が地上に届くまでには時間がかかるため、遠方にある銀河を観測すると、過去の銀河の姿を観測していることになります。そこで誕生間もない銀河を見つけ出そうと、遠方銀河の探査観測が行われており、代表的なものとしてハッブル宇宙望遠鏡による成果や、すばる望遠鏡による最遠方銀河の発見が知られています。これらの可視光望遠鏡により多くの遠方銀河が発見されていますが、その数はまだ理論的予測の1 ~ 3割程度にしかならず、宇宙には可視光では観測できない「暗黒銀河」と呼ばれる銀河が多数存在すると考えられています。銀河は一般に赤外線で最も明るいのですが、遠方の銀河は宇宙膨張に乗って高速で私たちから遠ざかっているため、ドップラー効果により地上では波長の長いテラヘルツ波(やサブミリ波)で明るく観測されると考えられます(図2)。可視光で観測できない暗黒銀河をテラヘルツ波(~サブミリ波)で探査し、生まれて間もない宇宙初期の銀河を見つけ出すことは、銀河がいつ、どのように生まれたのか、その謎を解明する大きな手がかりになるはずです。このように遠方銀河の観測に非常に有望なテラヘルツ波ですが、大気中の酸素や水蒸気に吸収されやすいため、地上からの観測が困難であり、これまで観測されていませんでした。
 

 

地上で唯一、南極に開くテラヘルツ波観測の窓

図3:南極(新ドームふじ)とチリ、ハワイにおける大気 透過率の計算値。テラヘルツ波(1000 GHz以上) で大気に吸収されず地上に届くのは南極のみ。

図3:南極(新ドームふじ)とチリ、ハワイにおける大気透過率の計算値。テラヘルツ波(1000 GHz以上)で大気に吸収されず地上に届くのは南極のみ。

 大気中の水蒸気による影響を減らすため、標高が高くかつ乾燥している場所が望遠鏡の設置には適しています。アルマ望遠鏡があるチリのアタカマ高原も非常に条件の良い場所ですが、大気中の水蒸気による吸収のためにテラヘルツ波は地上に届きません。それに対して南極内陸の高原地帯は年間平均気温が-54℃、最低気温が-80℃と極寒の地であることから、大気中の水蒸気が極めて少なく、地上で唯一宇宙からのテラヘルツ波が地上に届きます(図3)。
 もちろん、南極ならではの課題もあります。最低気温-80℃、最高気温-20℃の温度変化に対し、口径10mアンテナ主鏡面の熱膨張による変形を20μm以下に抑えなくてはなりません。またアンテナ主鏡に霜がつかないよう、主鏡を周囲の大気温度に対し+2 ~ 5度程度に暖める必要があります。加えて望遠鏡の建設地が沿岸部から約1000km以上内陸となるため、建設資材、発電用の燃油など大量の物資輸送をどのように行うのか検討を進めています。これらの課題を解決した先に設置される南極10mテラヘルツ望遠鏡は、新たな宇宙観測の目となります。これまで観測されてこなかったテラヘルツ波が私たちにどのような銀河の姿を見せてくれるのか、大きな期待が寄せられています。

 

 

 

 

社会への貢献・実績

● 現代天文学の重要課題の解明へ期待