筑波大学URA研究戦略推進室の名前は知っていても、どんな活動をしている組織なのか、まだ馴染みがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。研究者にとっては研究資金獲得の申請サポートなどがイメージしやすいかもしれませんが、実は大学の研究力向上を目指す様々な取り組みの企画・実行も手がけています。
今回はそんな活動のうちのひとつ、2022年4月に本格始動する若手研究者向け育成プログラム「TRiSTAR(トライスター)」をご紹介。同プログラムの統括を務める梅村雅之教授とURA 鳥羽岳太、大垣有美が、立ち上げに込めた想いや展望について語ります。
この春から本格始動する若手研究者の育成プログラム「TRiSTAR」は、URAが企画・実行を手がけているとのこと。どのような経緯でスタートしたのですか?
これまでにもURAは若手研究者を対象にした様々な支援を行ってきましたが、より深く、システマティックに取り組めないだろうかという想いをずっと持っていました。そんな中、2019年に文部科学省の「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」がスタート。これは、世界レベルの優れた研究者の戦略的育成のために大学・研究機関を支援することを目的とした新たな国の事業です。まさに私たちの今までの活動とマッチするものだと考え、公募に参加したのが今回のプログラムが生まれたきっかけでした。
若手研究者の支援はURAとしても注力してきた取り組みでしたので、応募の初年度はメンバー全員で意見を出し合って構想を練りました。しかし良い所まで進んだものの、残念ながら採択には至らなかったんです。
そこで翌年は申請の直前になってしまいましたが、筑波大の計算科学研究センター長として長く組織を率いていらっしゃって、若手研究者の育成にも熱心な梅村先生にご相談を差し上げました。
お声がけいただいた当初はURA側で既に構想が決まった段階でしたので、私はいちコメンテーターの立場でアドバイスをさせていただきましたね。
はい、さらに翌年には本格的にプロジェクトリーダーとして梅村先生をお迎えし、構想段階から入っていただいたこともあり、ついに採択される運びとなりました。実に3年がかり、「TRiSTAR」はURAでもかなり力を入れて準備を進めてきたプロジェクトと言えます。
今回の文科省の事業では採択された大学がそれぞれの取り組みを行っていると思うのですが、「TRiSTAR」にはどのような特色があるのですか?
研究学園都市であるつくばの強みを最大限に活かしたプログラムであることです。つくばの大きな特徴は、大学、国研、企業がひとつのエリアに集中していること。研究者が大学内に留まるのではなく、異分野との交流やコラボレーションを通じて自らの研究の幅を広げることで、世界レベルで活躍できる人材の輩出を目指します。
今回の応募に向けた準備期間はわずか1か月半でしたが、幸いにも多くの機関から賛同を得ることができました。というのも、国研や企業も次世代の人材育成を非常に重要視しています。今後はより深い部分でカルチャーの融合を目指しましょうと声をあげたところ、その理念に共感していただくことができました。採択につながった要因として、「産官学の連携」が絵に描いた餅ではなく、筑波大を中心とした筑波研究学園都市プラス企業の連携で、実現可能な仕組みとしてアピールできたことが大きいと感じています。
プロジェクトリーダーを梅村先生に依頼したことに関して、URAにはどのような意図があったのですか?
今回の事業が世界で活躍する研究者の育成を目標にするものでしたので、URAが練り上げてきた構想に、まさに今世界で活躍されているベテラン研究者の経験や視点を取り入れたいという想いがありました。筑波大にはそうした先生方が多くいらっしゃいますが、中でもご自身の研究分野を越えて幅広い研究分野の若手を束ねていらした梅村先生にお願いできたらと考えてお声がけしました。梅村先生は以前から若手の育成には関心が高かったのでしょうか?
そうですね、学生を教える立場として、研究分野に限らず若い人たちの学ぶ意欲、働く意欲の低下を感じていました。でもそれは個人の問題ではなく、社会の問題なんです。そうさせている社会の仕組みを変えないといけないだろうとずっと考えてきました。だからせめて大学内だけでも、次につながる人たちを残していかなければという想いがあり、今回のプロジェクトは覚悟を決めて飛びこみました。
正直に言うと、ご相談に伺ったのはダメもとでした。梅村先生ほどのキャリアのある研究者であれば、ご自身の研究はもちろん学内の委員としてのお仕事や、若手研究者・学生の指導などもあってお忙しいだろう、と。
今回のプロジェクトは、そうした研究者の可能性を引き出す機会になればと考えています。若い世代ほどフレキシビリティや開拓精神を持っている方が多いので、ちょっとしたきっかけを与えてあげることで大きな展開につながると思うのです。
そうした梅村先生のご経験に基づいたお話を伺うことで、若手研究者の皆さんもよりリアリティを持ってプログラムに取り組めるのではないかと期待しています。
梅村先生が加わったことで、プロジェクト内にはどのような変化がありましたか?
そもそもURAには研究者出身のメンバーが多く、その経験を活かして研究者視点のプログラムを企画・実行することに強みを持っています。そこに世界的に活躍する現役研究者である梅村先生が参加してくださることで、より今の現場で本当に求められていることは何か、どんな説明があると受け入れやすいのか、という部分がさらに強固になったと感じています。これからプロジェクトが本格始動するにあたり、学内の各部門をまわって参加を呼び掛けているところなのですが、梅村先生に同席いただくことで現場の先生方の納得も得やすくなり、学内での連携や発信力がより強まっています。
また先ほどお話があった通り、構想段階から梅村先生自らつながりのある国研や企業に足を運んで連携のメリットについてお話してくださったり、「TRiSTAR」というプロジェクト名を考案してくださったり。3年かけて準備を進めてきたURAのメンバーと同じくらいの熱量でプロジェクトに取り組んでくださることにとても感謝しています。
申請準備に関しては、URA内で既に2年の下地があったこと、また国研や企業とのネットワークを持つ方がいらっしゃったことも大きかったと思います。これは様々なバックグラウンドを持つメンバーが集まるURAならではの強みですね。
これから具体的にプログラムづくりを進めていく上でも、既にURAが手がけてきた研究支援の施策をベースにしながら、研究者が世界で活躍するための実践的なポイントなども梅村先生に示唆いただけると心強いです。研究者とURA、両者の強みを活かした取り組みにしていきたいですね。
いよいよ来月から「TRiSTAR」の募集・プログラムがスタートしますね。今後の展望を教えてください。
参加機関との連携を通じて、研究者が自身の研究を深めていく多彩なプログラムの準備を進めています。ぜひ若手研究者の方にはこうしたチャンスを活用していただき、一人でも多く世界に羽ばたいていってもらうことを期待しています。
人材の流出に懸念を示す見方もあるかもしれませんが、そうした考えが日本の研究力を低下させてきた原因のひとつだと言えます。欧米の大学は企業との結びつきが強く、研究に広がりが生まれたり、早期に社会実装が可能になったりするチャンスが多いのですが、日本ではなかなか進んでいません。そこが惜しい部分なので、意識して目指さなければいけないところなんです。
最後に研究者の育成支援におけるURAの今後の取り組みについて教えてください。
また先ほど研究者の新たなキャリアパスについての話題があがりましたが、URAとしては筑波大の研究力向上を目指しているので、外に出て行かれるのは少し寂しい想いもあります。でも若い先生たちが別分野に羽ばたいて研究を発展させ、その先で筑波大の先生たちと新たなコラボレーションが実現すれば、さらに良い循環が生まれていきます。だからこそ筑波大内だけの効果に留まるのではなく、その先で日本全体の研究力を向上させることに自分達の目標をステップアップさせ、より高い視点を持って活動していきたいです。
でも通常、そういった細かいノウハウを教わる機会はほぼありません。だから先人たちの知恵を活用するなど早い段階で意識を持って行動して学び取っていく、そういう機会を今後も「TRiSTAR」をはじめ様々な取り組みで提供していきたいです。
今回のプロジェクトを通じて、研究者が何を望んでいるのか、何を必要としているのか、今まで以上に研究者・URAで双方向のやり取りが進んでいきますね。URAがこれまで培ってきた資産やポテンシャルがさらに活かされていくのではないかと期待しています。
ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
本日はありがとうございました。