筑波大学URA研究戦略推進室

林 悠 筑波大学
国際統合睡眠医科学研究機構 客員教授
京都大学
医学研究科 教授
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加藤 英之 筑波大学URA研究戦略推進室 副室長 詳しくはこちら
※2021年2月取材当時
SPECIAL ISSUE研究者×URA対談

研究を進化・拡張させる
URAのポテンシャルとは。

IIIS(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)で睡眠について研究すると共に、京都大学で教授も務める林悠先生は、自身の研究を納得のいく形で進めていくためにはコンスタントな研究費獲得が不可欠であり、筑波大学URAとの関わりの中でグラント申請への意識が大きく変わったと話します。先輩研究者でもある筑波大学URA研究戦略推進室 副室長 の加藤英之はどのようなサポートを行い、難関であるAMED-CRESTの獲得へと導いたのでしょうか。

研究者に寄り添い、研究者がおかれている環境や状況を理解して伴走するURA。
そのあり方と可能性について、それぞれの立場から語り合いました。

研究者・URAとして再会し難関AMED-CRESTの獲得へ伴走

お2人は筑波大学でURAと研究者として出会う前に、同じ時期に理化学研究所に所属されていたんですね。神経科学と睡眠という比較的近い分野で研究をされている中で交流や面識はあったんですか?

直接お話ししたことはなかったです。

加藤さんは目立つ方だったので、私は一方的に存じておりました。でも、私が筑波大学に来た2013年、IIIS(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)のキックオフイベントで加藤さんからお声を掛けていただいたのが最初だと思います。

覚えています。優秀な方が来てくれたのが嬉しくて。

そこで筑波大学には加藤さんをはじめとしたURAの方々がいることを知りました。理研から来た私には、グラント申請などを支援してくださるURAという存在がとても新鮮で心強かったです。というのも、初年度はWPIでスタートアップをいただけたんですが、翌年度からの研究資金をどう調達するかを考えていたので。それで研究資金獲得の勉強会やイベントにできるだけ参加して少しでも勉強しようとしていたんです。
その後、2016年にIIIS機構長の柳沢正史さんがJSTのCRESTに応募された際に私は分担者として入っていて、加藤さんらが主催されたヒアリングのリハーサル会に参加したりしました。

その時はまだ直接的な関わりはなく、その後ですね。

はい。2018年にAMEDのCRESTに応募した時、加藤さんに申請書の添削をお願いして貴重なアドバイスをたくさんいただきました。書類審査に通って面接に進めることになった際には、加藤さんがヒアリングのリハーサル会を開催してくださって、本当にお世話になりました。

競争率が高くて難しいCRESTでしたが、ホームランバッターの林先生には確実に取らせなきゃいけないって、僕らURAとしても力が入っていたと思います。

実は……初心を忘れないように、自分で書いた初版の申請書を今でも残しています(笑)。加藤さんの指導のおかげで全く別の申請書に変わって獲得できたので、自分だけではまず無理だったと思います。

URAによる添削体験がグラント申請への意識を変えた

具体的にどのような添削だったんですか?

メインエリアには研究データを書かないという大幅な構成変更です。私たち研究者はどうしても自分の研究データばかりを詰め込みがちなんですが、加藤さんからご指導いただいているうちに、メインは研究構想のような大きな枠で書いた方がいいとわかってきて、データは後半にまわすように全体的に変更し、本当にまったく別の申請書に生まれ変わりました。あの時以来、申請書に対する観念やスタンスが大きく変わったというか、1枚の申請書だけの話ではなく自分自身にとって大きな転換点になりました。

林先生の研究は非常にレベルが高く、しかも強豪メンバーを揃えた研究チームを組まれていて、申請書を拝見すること自体が勉強になりました。そしてCRESTが取れて研究が広がっていくのを想像すると自然と力が入りました。
申請書に対してコメントをさせていただくのは、大変ではありますがとても面白いです。研究者は、先生や先輩研究者から論文の書き方や申請書の書き方を教わって育ってきています。僕自身もそうでしたし、他の人からアドバイスを受けるのは研究者にとってはよくあることですよね。

はい。学生時代やポスドク初年度には必ず先輩や先生になるべく見ていただいていました。でもキャリアを積むにつれて他人に見せる時間的な余裕がなくなってきて、また、お互いに研究者としてのプライドもあるので、明らかな間違い以外は指摘しなくなるし、そもそも他人に見せなくなっていきます。学生や後輩には客観的で素晴らしいアドバイスをできる人でも、自分の書面は主観的ということがしばしばありますので、いつになっても他の人に見てもらうべきだと反省しているのですが。

ほとんどの研究者がそうなりますね。

僕自身、AMEDの時は何が何でも欲しくて準備に時間をかましたが、普段は一夜漬けです(笑)。当時よりも申請書の質が下がってきているかもしれません。だからURAの方々が申請書作成支援やヒアリングなどを学内のシステムとして用意してくださっていることにとても助けられています。

より良くするために別の可能性を示唆する

若手研究者へのサポートとベテラン研究者の方へのサポートには違いがありますか?

ベテランの先生の場合は、分野外からの第三者意見を求めてくださることが結構あります。その中でも、積極的にアドバイスを受けたい人もいれば、最低限の意見だけで十分という人もいます。キャリアだけでなく、そもそもの性格の違いもありますね。
研究者とは基本的に専門分野を深く掘り進めていく人たちなので、外から見ると意義や面白さが伝わってきにくいことがあります。その点で「こういう可能性もありますよね」「こう書くと伝わりやすいかもしれません」という意見をお伝えすることが多いです。「こう書いてください」といった言い方はまずしないですし、押しつけがましい印象にならないように心掛けています。

加藤さんのコメントは本当に優しいです。もう少しきつく叱っていただいてもいいくらいなのに。

お互いに「アドバイスを受けやすく」「アドバイスを伝えやすく」するのが一番大事だと思うんです。僕も昔は、恩師に厳しく論文指導されたこともあります。研究者は結構「褒めて育てる」プロセスを面倒くさがって飛ばしがちなんですけど、僕は、申請書の良い部分を忘れずにコメントするようにしています。良いところがきちんと評価されるのが伝わると、コミュニケーションのベースができます。僕らURAとしては、せっかく考えたリコメンデーションが響かないと意味がないので。これは筑波大学URA研究戦略推進室全体で意識していることです。

一流の研究者はプレゼンテーションの大切さを知っている

海外の大学や研究機関と比較して、日本の研究環境の現状や課題についてはどのように考えていますか?

僕は海外での研究経験から、海外で体験した優れた研究環境や研究者のためのサポート体制を筑波大学に合う形に取り入れて実現したい気持ちが常にあります。
例えば研究者によるプレゼンテーションにしても、海外ではすごく力を入れてやっていることなんです。雄弁なプロフェッサーは練習なんかしていないんだろうなと思っていたんですが、そういう人こそしっかり練習しているんです。また、ネイティブであっても論文の英語を最適化するためにかなりの時間を使っていました。プレゼンテーション、論文や申請書を書くといったアウトプットに対して、日本全体でもっと力を入れた方が絶対にサイエンス業には有利だと思います。その考えから、筑波大学URA研究戦略推進室ではこの点に組織的に力を入れています。

研究していると正直手が回らないところもあって……

1秒でも長く実験したいし解析したいですよね。でも逆に言うと、それだけの時間と魂を込めて得た研究成果をしっかりアウトプットできないと、伝えたいことが十分に伝わらず、とても勿体ないことになります。
日本には、古くは「詠み人知らず」のように、自分で作ったのにクレジットもせずに世に残す奥ゆかしい文化がありますが、世界に対しては研究の意義も魅力も成果もきちんとし伝えることが大変大事だと思います。
一流の研究者は、パフォーマーとしてのふるまいの重要さを意識していますよね。例えば、柳沢正史先生はプレゼンテーションが本当に上手です。研究者相手だけでなく一般向けにも感動させるスピーチができる。自身の研究の意義や魅力を世にしっかりと伝えることで、別のサイエンティストがそこから新しいインスピレーションを得て、研究が深まっていくので、アウトプットは科学の要素としてとても重要だと思います。

柳沢さんのプレゼンはいつもわかりやすく魅力的で堂々としていますが、筑波大学にきて、準備やリハーサルをきっちりされていることを知りました。アメリカで長く研究し国際的に活躍されている方なので、まさに加藤さんがおっしゃった通りですね。それこそ、柳沢さんはCRESTの際にもURAを活用していたりもして、アウトプットの重要性を強く意識されている方だなと思います。

専門分野にこもりがちな研究者をURAが広い世界へと誘い出す

研究者人生の転換となった申請書作成支援ですが、URAとの関わりにはそれ以外にどのようなものがありますか?

2018年の申請書の時の強烈な体験があるので、その後も加藤さんに見ていただくケースが多いですが、他のURAの方々からもいつも素晴らしいアドバイスをいただいてます。またIIISには部局URAの方が常勤してくれていて、普段から申請支援だけでなく様々な面でIIISを盛り上げ、支えてくださっています。

僕自身やURAの中には元研究者が多いけれど、現役の研究者ではないので、今まさに研究に打ち込んでいる先生方と普段からお話しする中で得られるものが非常に多いです。研究者といっても皆さん違う経験を積んでいて、いろいろな国や大学で研究されてきているので、世界の最新情報をゲットできるチャンスでもあります。もちろん、研究者一人ひとりの新しい方向性を知ることができるのがURAとしてはとても面白いところなんです。

私が選んだ研究テーマはとにかくお金がかかるんで、研究者である限りはずっと資金調達の心配から解放されることはないでしょうね……。おそらく今後もいろいろと相談させていただくと思います!
もちろん資金調達は目的ではなく、あくまで手段です。私の最終的な目標は「睡眠は何のためにあるか」という意義を解明し、研究成果をうまく活用して医療に役立てられたらいいなということです。そのための研究を納得できる形で進められるために、資金獲得は必須なので。

URAとして、研究者として、お互いにリクエストしたいことはありますか?

林先生はもう十分に高名な研究者なので、僕からは何も言うことはないですよ。今の本務先である京都大学も素晴らしい研究環境だと思いますし。でも、もし今後も、客観的な目が必要なことがあれば、少しお手伝いができるかもしれません。研究に集中しすぎた時に他の分野の先生と話をする機会を持つとか、そういう面でもURAは役に立てます。僕ら筑波大学のURAは京都大学のURAとも深く付き合っているので、URAが大学を越えた橋渡しをして新たな共同プロジェクトを立ち上げるといったこともできるかもしれないです。

ありがとうございます。自分の分野にフォーカスしすぎず、視野を広く持つことを肝に銘じておきます。
研究者の多くは任期付きなので、研究成果へのプレッシャーと日々の雑務に追われて、専門分野以外の方と交流する余裕を持てていないのが正直なところかと思います。でも長い目で見たら、視野を広げることはかなり重要だと思うんです。
筑波大学も京都大学もURAの方々が交流イベントを開催してくれたり、システムを整備してくれたりと、アクティブに活動されていますよね。研究者の立場もわかってくださっていて、その上で大学全体を俯瞰できている方々だと思うので、これからも研究室から外に出ていきたくなるような企画をどんどん生み出していただけたら嬉しいです。私たち研究者は面白そうなお誘いメールをいただいても、つい「でも明後日までに学生の成績表を記入しないと……」などと引きこもりがちなんですよね。
URAの方々へのリクエストというより、私たち研究者の意識の問題ですね。これからもアクティブな取り組みで私たち研究者を新たな可能性へ導いていただきたいです。

林先生にはご自身の研究を深めるのはもちろん、今後は後進の育成にも一層力を注いでいただけたらと思います。アウトプット意識の高いサクセスフルな研究者をたくさん育ててくれるのを期待しています。そのために筑波大学URAも一緒に努力していけたらと思います。