研究ターゲットを世界の誰よりも深く掘り下げることは「専門家」としての研究者の最も基本的な活動です。一方、他分野の研究者と議論してその思考回路や手法に触れて新たなインスピレーションを得たり、自分と相補的なスキルを持つ研究者とコラボすることも、研究を進化・拡張するのに非常に有用と考えられます。
筑波大学URA研究戦略推進室は、研究者が、忙しい研究生活の中でも、他分野の研究や研究者に目を向ける機会を持てるよう、同分野の未知の研究者との出会いや異分野の研究者との出会いのハードルを下げるイベントを実施しています。急速に発展するITテクノロジーやAIが学びや知見獲得に活用されていますが、異分野研究者とのリアルな対話からこそ得られる大きな価値があると考えます。異分野とのコラボにより、従来では不可能だった学問的挑戦、学問の新たな扉を開くことを期待します。
コラボレーションにつながる研究者同士の出会いは男女の出会いに似たところがあるかもしれません。コラボが異次元の研究進展をもたらす可能性には期待しつつも、本当に正しい相手なのか、相手にとっても自分にとっても正しい投資判断なのかという不安は常にあります。
双方が出会いを望んだ場合のみ互いの名前を明かす「ブラインドデート」の手法が恋愛で使われていますが、その研究コラボ版とも言えるものが京都大学の「100人論文」です。
もともと興味が近い研究者が出会うことが多い「学会」とは異なり、「100人論文」では、異なる分野の研究者が出会い新領域の研究を生み出すことが期待できます。「私の研究テーマはこんな感じです」、「こんなコラボがしたい」、「私、こんなことができます」の3項目をポスターで掲示し、来場者がコメントを貼るスタイルで実施します。同じスタイルで実施できるオンラインシステムも運用しています。今後は大学の枠を超えた取り組みや海外機関研究者との学術共同研究への発展につながるような新たな企画を進めます。
異分野間のコラボレーションによる新発見や新分野開拓の可能性を持つつくばで、KEK物質構造科学研究所の池田進名誉教授が2007年に「つくばスパイラル対話シリーズ」という研究会を発足させました。
「コンクリート」をテーマとする会では、素材の専門家、建築の専門家とともに中性子による非破壊探索の専門家が議論を交わし、また「昆虫」の会では蜘蛛の糸のタンパク研究者、放射光で昆虫の自然免疫を研究する者などが議論し、さらに「小型加速器」の会では、医療の専門家や小型中性子線源の研究者らが議論し、現在筑波大学で最先端のがん治療法として研究開発を進められている、ホウ素中性子捕獲療法の話に繋がりました。
筑波大学URA研究戦略推進室では、2017年にKEK物質構造科学研究所のURAと共同で、TIAかけはし課題「つくばに於ける研究連携の可視化と活性化を目指す『つくば連携支援ネットワーク』の構築」にて、「ICT時代の「手術」の進化ワークショップ」や、「Tsukuba Future Dome Symposium(街全体をドームに入れる未来都市構想)」と題して新たな異分野のコラボレーションの可能性を模索しました。
また、つくば市に多数存在する研究コミュニティの可視化とイノベーションへの貢献を目的に、「つくば研究支援情報交換会」を立ち上げています。
新型コロナによる初の緊急事態宣言の最中2020年4月28日に、筑波大学で学内公募を開始した「新型コロナウイルス緊急対策のための大学「知」活用プログラム」では、筑波大学の10の研究部局全てから応募があり、COVID-19への免疫、創薬シミュレーション、マウスモデル、感染予測、飛沫拡散予測、ロックダウンの家庭影響、心理影響、教育影響、障害者影響、国際移民への影響、芸術活動への影響、国際比較、インフォデミック、世界的論文出版急増、といった多種多様な分野の研究者が研究を開始しました。そこでこれらの研究者を一堂に集めるオンラインワークショップを行い、全く異なる分野ながらCOVID-19危機という共通の興味を持つ研究者の間での対話開始の機会としました。この会で研究者たちは、他の研究(者)への強い関心を表明し、それをきっかけに同分野、異分野の研究交流が加速しています。また、このグループの10名の多様な分野の教員がオムニバス方式で講義する「TSUKUBA新型コロナ社会学」が2021年度開講します。