筑波大学URA研究戦略推進室

2023.11.20

研究者のウェルビーイングを考える②筑波会議2023

筑波会議2023 最終日の9月28日に、「研究者ウェルビーイングを考えるシンポジウム(世界で活躍する研究者戦略育成事業 TRiSTAR II)」が開かれました。会場には、30名ほど集まり、日本の研究現場においてパフォーマンスを発揮するために、多様な背景の研究者とともに、ウェルビーイングな環境や心の在り方について考えを深めました。

プログラム概要
(1)講演・話題提供者
 1. 研究活動の指針としてのウェルビーイング
        渡邊 淳司 氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員)
 2.Researcher’s Well-being in Academia: my experience in Germany & US
        白岩 学 氏(カリフォルニア大学アーバイン校 教授)
 3.My journey towards Researchers Well-being
  Amarjargal Dagvadorj 氏 (Breathe Mongolia- Clean Air Coalition “Let’s take action” project, Director)
 4.「ひらく」と「出会う」場のプロデュース
        金 徳済(株式会社ロフトワーク プロデューサー)
(2) パネルディスカッション:「研究者ウェルビーイング」とは何か
  上記講演・話題提供者に、パネリスト:標葉 隆馬 氏(大阪大学 社会技術共創センター 准教授)、モデレーター:梅津 静子 氏 (筑波大学人間系 助教)が加わり研究者ウェルビーイングについて議論しました。

基調講演にご登壇いただいた渡邊先生は、講演の中で、次のようなお話しをされました。内発的価値が個人の幸福の在り方を変えることに触れ、ウェルビーイングの評価と実践は違うことを話された上で、そしてウェルビーイングの実践は集団の意識の中でウェルビーイングにつなげることが重要だとのお話をされました。つまり、集団の中の一員として、一人の私と他の私たちを調和する「コレクティブウェルビーイング」を考え、価値観を分かち合うことが重要と主張しました。

白岩先生のプレゼンテーションでは、ドイツでの研究経験から、日本とドイツのワークライフバランスの意識の違い、ライフステージによって働くペースを変えて、人間環境や職場環境を振り返り、研究現場での失敗との向き合い方をお話しされました。

Amara先生はモンゴル出身で医師免許を保持している研究者です。日本で博士と研究者として働いた経験から、先生自身が直面した日本の研究システムの課題(海外出身の研究者への言語やメンタルヘルスの対応不足)と研究者が世界共通で直面する課題(ワークライフバランスと経済的側面)についてお話ししてくれました。

ロフトワークのキムさんからは、研究者と社会をつなぐ取り組みの中から、これまで実施したオープンなコラボレーションの事例とその重要性を共有してくれました。

パネルディスカッションでは、上記の登壇者に加え、モデレーターの梅津先生とコメンテーターの標葉先生が加わり次のことについて議論されました。

 標葉先生は、日本の45歳以下の若手研究者から8000件近くあるアンケート調査の分析を行ないました。その分析結果によると、若手研究者は、40%以上の時間が事務作業や管理運営業務などに費やされていると感じていると述べました。また、年齢やライフステージによって、研究環境の関心が個人の問題から家族の問題へ変化していることも明らかにしました。日本の研究現場は、このような問題に対処しなければならず、それが研究のパフォーマンスに直結しています。

〇 研究者が自分自身のウェルビーイングを実現するには、集団的幸福を体現するマインドセットが必要で、個人と集団の幸福の両方を考える「Collective Well-being」の考え方が必要である。

〇   研究者として、メンタルヘルスを保つために、有害な人から立ち去り、レジリンスを養うこと。また、レジリエンスを保つために、様々なコミュニティに属し、時に他者にとって自分が有害になっていないか距離を取り客観的に考える。

〇 研究者の属性の背景(発展途上国や性別)などによって研究者ウェルビーイングは決定づけられる現実と課題がある。

〇   研究者が行った研究と研究管理は異なるスキルと役割を持つと考えられるため、大学が若手研究者に提供できる支援として、多言語のサポート、研究管理の協力者として機能できるプロジェクトマネージャーの育成、そして研究の戦略的マネジメントの実施に期待したい。

最後に標葉先生が、本イベントの成果を次のようにまとめてくれました。

これまで紹介されたデータと今日の議論を踏まえると、若手研究者の問題認識は仕事を得ること、家族との兼ね合いに加えて、論文出版するプレッシャーの下にいます。それらを世界規模で考えると、属性(国・地域)によって研究者のウェルビーイングが変化します。研究者のウェルビーイングは、属性(国・地域)やライフイベントと研究者のキャリアが複雑に絡んでいます。特に、ライフイベントの変化と共に、研究者のキャリアでの課題は時間や家族の問題に移ります。そして、発展途上国の研究者の方々は、これらの問題について、困難な状況にあります。現在、研究者は自国以外の国で博士号取得が助長される中で、この研究者のウェルビーイングという課題は、今後もグローバルな観点で議論が続けられることでしょう。


今回の筑波会議でのイベントを踏まえて、研究支援組織、研究支援者として、研究者のウェルビーイングを実現するために、何ができるのかとても考えさせられました。

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