聴(Tsukuba Communications)

今後、つくば周辺に、巨大地震は起きますか?

代表者 : 八木 勇治  

東北地方太平洋沖地震
発生のメカニズム
 日本列島は、北米プレート、ユーラシア プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートという 4つのプレートがひしめき合う、世界有数の変動帯にあります。
 そして、東日本の地殻を乗せた北米 プレートは、太平洋沖に南北に走る日本海溝から北米プレートの下に沈み込んできている太平洋プレートに、東から西に押されている状態にあります。長い年月押され続けて蓄積したひずみが限界に達し、そのひずみが解放されたために起きた「プレート間地震」(海溝型地震)が、今回の東北地方太平洋沖地震です。海底が盛り上がり、大津波が発生しました。
 地震波などのデータを解析したととろ、プレートの滑りは50メートル近くにおよび、 震源域は、南北 450キロ、東西 180キロに達していました。阪神淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震(プレート内地震)の約 1000倍のエネルギーが解放されたといいます。
 プレートとプレートの聞で発生する「プレート間地震」は、プレート内部で発生する「プレート内地震」や沈み込む海洋プレート内部で発生する「スラプ内地震」より巨大になる傾向があります。

余震は収束ヘ
 3月11日以降、M 5以上の地震は、日本全体で600回以上ありました。過去10年は、年平均120回程度でしたから、これは大変多い数ですが 、その うち450回は 3 月中にあり、最近 1 カ月では9~10回と、以前と同じくらいの頻度になっています。
 余震は収まってきているといえるで しょう。

M 9 クラスの地震の特徴
 M8以下の地震と、東北地方太平洋沖地震のような、M9クラスの地震には 大きな違いがあります。
M8以下の地震は、地震が起きた領域のひずみの一部を解放するだけですが 今回の M9クラスの地震は、M8以下の地震では解放できなかった部分も含めて 、沈み込み帯全体のひずみを解放しています。全体のひずみが解消されたので、今後、震源域の宮城県沖では、地震が起こりにくい状態になっているように見えます。

茨城県沖巨大地震
 今後、巨大地震が起きる可能性が高いのは 、東北地方太平洋沖地震の震源 域の周辺です。
 巨大地震が起きると、莫大なひずみを解放するわけですが、ひずみが解放 されたことによって、周りにひずみが添加され、同じメカニズムの地震が誘発されやすくなり ます。2004年のスマトラ沖地震は、 東北地方太平洋沖地震と同じプレート間地震ですが、地震の後、震源域の周辺で、いくつもの大地震が発生しています。
 こうしたことから、震源域周辺は巨大地震が起きやすい状況になっており、 中でも、震源城南部の茨城県沖は、巨大地震が起とる可能性の高い地域の1つです。※
 ここでは、江戸時代(1677年)に、延宝房総沖地震が起こりました。M8前半で、茨城に6~7メートルの津波がきたと言われています。その後、約3 30年以上にわたってひずみが蓄積しているところに、東北地方太平洋沖地震による負荷が加わったので、危険性がより高まったといえるでしょう。
 また 、つくば周辺では、二つの海洋プレートが沈み込んでいるためにスラプ内地震が起きる可能性もあります。過去に竜ヶ崎周辺で M 7 クラスのスラブ内地震がおきています。しかし、震源地が地下約50キロと深いので、今回のような大震災になる心配はほぼありませんが、警戒は必要です。

地震による災書を 軽減するために
 巨大地震はいつ起きてもおかしくない、と恐怖感を煽るつもりはありませ んが、いずれは必ず起こりますので、今から備えることが大切です。
地震による災害を軽減するため、本学では「巨大地震による複合災害の総合的リスクマネージメント」というプロジェクトが動き出しています。地球科学だけではなく、構造エネルギー工学やリスク工学、 社会システム工学、環境科学などさまざまな分野の先生方が集まり、学際的に取組んでいます。 私たちが、緊急に実現すべきと考えていることの1つに、街灯や信号機の電力の バックアップシステムの整備があります。
 「車で逃げてはいけない」というのが、 津波避難のセオリーなのですが、東北地方太平洋沖地震では、車で逃げた方が大勢いました。停電で信号が止まっていたた めに交通渋滞が起きて、命を落とした方も少なからずいらっしゃいます。今回は、明るい時間帯に地震が発生しましたが、 夜に起きていたら、被害はもっと大きくなったことでしょう。そこで、交通要所の信号機や、3本に1本程度の街灯に、停電後1時間程度機能し続けることができるように、非常用電源を整備していく必要があると提言しました。

想像力を働かせた避鍵訓練を
 各自でできる有効な震災対策としては、 どこにどのように避難すればよいか日頃から訓練しておくことです。いざという時、避難訓練をしているかいないかでは、大きい違いがあります。
 さらに、型通りの訓練では不十分であるというのが東日本大震災での教訓です。

 マニュアルと違う不慮の状況が起きた場合でも対応できるよう、さまざまな状況を想像し、自分で考えながら避難訓練をして、想定外の災害に遭った場合でも冷静に避難できるようにしなければなりません。
 学生に避難訓練をさせる場合にも「この場合はこうしなさい」と数えるのでなく、「どうすべきか」と質問を投げかけて、一人ひとりに想像させ、災害時には自分で考えて行動するように指導すべきでしょう。
 なお、地震後に避難する際には、崩れる危険がある建物にいる場合を除き、建物から急いで飛び出す必要はありません。 例えば、本学の建物にいる場合は、しばらく建物にいた方がむしろ安全です。
 地震がいつ来るかを知ることはできま せん。しっかりと備えて、いざという時には、パニックをおこさず、適切な判断を下して、 自分の身を守りましょう。

八木勇治准教授(生命環境系)