科研費NEWS:日本学術振興会(JSPS)

リチウムイオン電池に新材料:配位高分子への期待(科研費NEWS_2012_vol.2)

代表者 : 守友 浩  

リチウムイオン電池に新材料:配位高分子への期待(科研費NEWS_2012_vol.2)

筑波大学 数理物質系 教授 守友 浩

研究の背景

リチウムイオン電池はスマートフォンやモバイルPCには欠 かせない部材であるだけでなく、電気自動車の電源や高容 量の蓄電池への応用が期待されています。リチウムイオン電 池材料の研究開発の主流は酸化物系材料で、現在、 LiCoO2が実用化されています。LiCoO2は1グラム当たり、 140ミリアンペア時の電気量を蓄えることができます。リチウム イオン電池は、他の電池に比べて、容量が大きくサイクル特 性(何度でも充放電ができる)が高いという特徴を持ってい ます。しかしながら、大きな電流量を取り出せないため、出力 密度が小さいという欠点があります。出力密度を向上させる には、高速でリチウムイオンを出し入れしなくてはなりません。  私たちは、三次元配位高分子(図1)であるプルシャンブ ルー類似体に着目し、これまで系統的な研究を進めてきまし た。この化合物では、リチウムイオンの出入り口が広いだけで なく、その経路が三次元的に広がっています(図1)。そのため、 高速でリチウムイオンを出し入れできることが期待されます。

研究の成果

 プルシャンブルー類似体(「活物質」)の本来の性能を引 き出すためには、「活物質」と電気を取り出す金属(「集電 極」)との電気的接触をよくする必要があります。そこで、私た ちは、「集電極」上に「活物質」を電界析出させた薄膜を作 成し、材料の性能を評価することにしました。鉄とマンガンを 組み合わせたプルシャンブルー化合物LiXMn[Fe(CN)6] 0.81・3.0H2Oを「活物質」とし、透明電極であるインジウム錫酸 化物を「集電極」としました。図2に1.2μm程度の薄膜電極 の放電曲線を示します。340C(10秒で放電が完了する)と いう非常に速い放電速度においても、高い起電力と高い容 量(遅い放電速度の89%)が観測されました。また、高速放 電を繰り返しても高いサイクル特性が観測されました。  さらに、放電速度を向上させるために、材料をナノサイズ 化しました。その結果、3000C(1秒で放電が完了する)とい う驚異的な速度での放電が実現しました。この放電速度か ら出力密度を評価すると、720W/gとなります。この値は、電 気二重層キャパシタ電池の値をも超えています。  高速放電の実現には主に3つの要因が関係していると 考えられます。第一に、プルシャンブルー部位自体が高いリ チウムイオン拡散係数を示すことが挙げられます。この材料のリチウムイオンの拡散係数は、実用化されているリチウムイ オン電池の正極材料の値と比べて、10倍から100倍の大き さです。第二に、プルシャンブルー類似体の配位高分子構 造が、リチウムイオンの出入りに対して安定であることが挙げ られます。これに対して、実用化されている正極材料では、リ チウムイオンの出入りによる構造相転移が起こり、劣化の原 因となっています。第三に、「集電極」上の「活物質」の電気 的接触がよいことが挙げられます。

今後の展望

 本研究により、鉄とマンガンを組み合わせたプルシャンブ ルー類似体が優れた正極材料であることが実証されました。 リチウムイオン電池材料の開発戦略に、配位高分子といっ た新しい材料系が加わりました。  プルシャンブルー類似体を大型蓄電池材料として利用す るには、材料を粉末化する必要があります。さらに、プルシャ ンブルー類似体はナトリウムイオンに対しても高い放電速度 を示します。私たちは、粉末試料においてもこの優れた電池 特性の実現を目指すとともに、大出力リチウムイオン電池と 安価なナトリウムイオン電池の開発研究を行います。

関連する科研費

平成22-23年度 特定領域研究「光励起によるナノポー ラスシアノ錯体の物質移動と物性制御」 平成21-24年度 基盤研究(A)「シアノ架橋金属錯体界 面を通じた物質移動と電圧誘起機能」