ハロー先端科学(大学新聞)

耳・目・皮膚 刺激し「会話」 ALS患者の負担軽減へ

脳波を検知し、難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)の患者の意思を読み取る装置の開発を進める筑波大学のルトコフスキ・トマシュ講師(シス情系)。同講師は、患者の触覚だけではなく、視
覚、聴覚への刺激も利用し、患者との「会話」を実現しようとしている。
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 トマシュ講師によると、聴覚を利用した研究では、さまざまな音を鳴らすことで、患者が文字で自分の意思を伝えることを考えているという。 例えば、患者が「さかな」と伝達したい場合、「あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わ」の音をスピーカーから鳴らす。「さ」という音で脳波が反応した場合、さらにさ行の「さ、し、す、せ、そ」の音を鳴らす。ここでさらに脳波を測り、「さ」行のなかで患者が訴えたい音を探す。これを繰り返し、患者が求める単語を探すことが可能になるという。
 トマシュ講師は脳波の反応から車椅子を動かす実験も行っている。例えば、患者に上、下、右、左の4カ所に光る点のあるパソコンを持たせ、患者が上の点を見た場合の脳波の変化を基に、車椅
子を前に、また右の点を見た場合は右に進むようにするなど、患者が車椅子を自由に動かせることを目指す研究だ。
 トマシュ講師は患者の触覚を刺激して、その際の脳波の変化を基に患者と「会話」する装置も研究中。この際、身体に触れずに患者の触覚を刺激できる装置、空中超音波触覚ディスプレイ(AU
TD)の活用は同講師の強みだ。この装置は、多数の超音波スピーカーで構成され、空間中に超音波の強弱の分布を作ることができる。
 この空間の中では、患者は皮膚に刺激を感じ、その際の脳波を基に患者の意思を読み取れる。こうすれば、患者の体に刺激を与える機器を長時間取り付けるより、患者の負担を軽減できる。

 昨年、バケツに入った氷水を頭からかぶる「アイス・バケツ・チャレンジ」が世界で流行し、社会現象化した。その目的は、ALSの患者の支援だった。米国ではブッシュ前米大統領や歌手の
レディー・ガガさんも参加。報道によると昨年8月末の時点でアメリカのALS協会へ集まった寄付金が約1億ドル(約120億円)に達した。日本でも、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山
中伸弥・京都大学教授が参加するなど広がりを見せた。
 その治療法が注目を浴びるALS。同講師の挑戦がALS患者の希望の光となるのか、注目したい。(林健太郎=社会学類3年、写真も)