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#111:外国人と共生するための日本語教育

人文社会系 松崎 寛 准教授

外国で暮らす上で、その国の言語を身につけることはとても重要です。日本は、留学生や外国人労働者を積極的に受け入れる政策を進めており、その一環として今年6月、日本語教育の推進に関する法律が成立しました。しかしながら日本語教育は、学校で扱う教科とは異なり、教師になるにも教員免許のような公的資格や、学習指導要領などの基準となるカリキュラムもありません。そのような中で松崎さんは、日本語を母語としない人々にどのように日本語を教えるか、またそのための人材養成について研究しています。

日本語学習者には親と一緒に来日した子供たちも含まれます。子供は、地域の学校に通ったり、子供同士で遊んだりするうちに、自然と日本語を習得できると考えがちですが、日常のおしゃべり能力(BICS, Basic Interpersonal Communicative Skills)と、学校で教科を学び、さらに進学するためのそれ(CALP, Cognitive Academic Language Proficiency)は異なります。日本語能力が十分でない児童生徒等を受け入れる体制が整っている学校は非常に少なく、何の支援もなく、いきなり普通のクラスに入れられて、授業についていけなくなるケースは珍しくありません。日本語指導が必要な高校生の中途退学率や非正規就職率の高さは、文部科学省の調査でも示されています。これは日本社会の問題であり、その意味でも、日本語教育をしっかりと行うことが重要です。

外国人が日本語を学ぶのは、日本人が英語を学ぶのに似ています。ただ、長期にわたって日本に滞在、あるいは定住しようとする人にとっては、日本社会の仕組みや文化も踏まえた「生活のための日本語」でなくてはなりません。そのため近年では、文法や語彙などの日本語そのものの知識や、伝統的な日本文化だけでなく、教育学、社会学、心理学、異文化コミュニケーションや国際理解といった幅広い知識が、日本語教師に求められるようになりました。さらに、外国人児童生徒等の日本語教育には、子供の発達や学校教育に関する知識、そして教育実践力・社会的実践力なども必須要素。筑波大学が持つ、それらの学際的なつながりは、日本語教師の養成において、大きな強みとなる可能性があります。そこで現在、松崎さんは、様々な領域の教員とリサーチ・グループを作り、学生ボランティアを募って、まずは筑波大学の留学生とその家族の「困りごと」を調査するところから共同研究を始めています。

(外国人受け入れに積極的な地域のノウハウや知見を共有して実践できるようにすることも、日本語教育の現代的課題と語る)

もう一つ、松崎さんが関心を持っているのは、日本語の発音です。多くの学習者は母語の影響を受け、「かわいい」が「かわい」のように短くなるなど、正確な発音が難しい部分があります。もちろん、練習すればできるようになるのですが、会話の中で常に間違えないように発音するのはなかなか面倒です。できるだけ楽に発音を勉強するための方法も松崎さんの研究テーマです。実際の会話では、同じ単語でも、文脈によって抑揚のつけ方が変わることがあります。ですから、前後のつながりも含めた一続きのフレーズに着目して、アクセント、イントネーション、リズムを習得する方が効率的。細かい発音が多少間違っていても、フレーズ全体として日本語らしく聞こえる方が、コミュニケーションには大事なのです。そのための教科書や発音練習のソフトウェアなどを開発しています。

(自分の発音をモニタリングしながら、フレーズ単位で抑揚を練習する音声認識プログラム)

高校時代から言語としての日本語に興味があった松崎さん。でも文学が苦手で、国語の先生になるのはためらわれたそうです。そんな時に、留学生を増やす目的で、日本語教師の養成課程が各地の大学に作られ始め、その第1号だった筑波大学への進学を決めました。最初は、国語から文学を除いた程度に日本語教育を考えていましたが、実際に学んでみると、日本語教育の奥深さに気づいたと言います。

日本語は他の言語よりも難しいと考える人は多いでしょう。しかしそれは誤解だと松崎さんは指摘します。外国語の学びやすさは、学習者の母語や学習環境によるところが大きいのです。外国人力士が短期間で流暢な日本語を話せるようになったり、アニメや漫画などのポップカルチャーを入口に、独学で日本語を習得する人も少なくありません。外国人が日本語をマスターするのは無理だというのは、日本人が自ら作っている精神的な壁。周囲の人間関係やモチベーション維持など、社会全体としての学習環境が整っていることが、言語習得には大切です。そう考えると、日本語学習支援は、外国人と共生していく私たちみんなで担うべきことでもあります。