ハロー先端科学(大学新聞)

心臓治療を大きく前進 安全・安価な画期的治療へ

医学医療系 家田 真樹 教授 

 国内で死因の第二位を占める心筋梗塞や心不全などの「心疾患」。現在、さまざまな細胞に変化できるiPS細胞を利用した治療が期待されているが、細胞のがん化の危険性や高額な費用な
ど、様々な課題が残っている。こんな中、家田真樹教授(医学医療系)を中心とする研究チームは昨年8月、iPS細胞を使わずに心臓のあらゆる細胞の元となる細胞を作ることに世界で初めて成功。安全・安価な画期的治療法に結びつくとして世界の注目を集めている。
 心筋梗塞になると心臓への血液が不足し心臓を拍動させる「心筋細胞」の壊死を招く。だが心筋細胞は再生しないため心臓機能が衰え、最悪の場合は死を迎えてしまう。現在、根本的な治療は心臓移植や人工心臓の装着のみ。だが、臓器提供者の不足や体への負担が大きいなどの難点がある。iPS細胞で心筋細胞を作り、心臓に移植する治療も研究が進むが、工程の複雑さや高額な費用のほか、移植時にがんを形成する危険性も指摘されている。心臓はその機能が低下した際、自ら拍動できない「線維芽細胞」が多く発生する。家田教授はこの細胞を拍動させようと、マウスで同細胞にさまざまな遺伝子を注入する実験を実施した。この結果、従来は脊椎の形成に重要だと考えられていた「Tbx6」と呼ばれる遺伝子を入れた場合、この細胞が、心臓を構成する全種類の細胞に成長する「心臓中胚葉細胞」に変化することを発見。これをもとに最終的には、心筋細胞の作成にも成功した。その論文は、再生医学分野において、世界で最も権威があるとされる米科学誌「セル・ステム・セル」に掲載されるなど、大きな反響を呼んでいる。
 この発見を用いた新たな治療法では、細い管を通してTbx6を直接体内に入れるため、胸を切り開く必要がなく、手術が簡易になる。また、iPS細胞より簡単に心筋細胞を作り出せるため、治療費用が低くて済むほか、iPS細胞で指摘されるがん形成などの課題の克服が期待される。
 家田教授は今後、5年後の実用化を目指し、ブタなどを用いた実験で安全性や有効性を確認する。
 世界中に多くの患者がいる心疾患。その脅威が克服される日は遠くないかもしれない。