TSUKUBA FUTURE

#090:ジャンプ!ターン! 小動物の俊敏さをロボットに

代表者 : 望山 洋  

システム情報系 望山 洋 准教授

 作業のスピードや精密さにおいて、ロボットはもはや人間の能力をはるかに超えています。一方で、動物がふつうに行う動作が、ロボットにはとても難しかったりします。その一つがジャンプ。動物の場合は、筋肉や関節を使ってエネルギーを溜め、それを一気に放出します。特に、ネズミ、リス、カエルといった小動物は、木に登ったり走ったりしながら、いろいろな状況で自在に、しかも繰り返しジャンプすることができます。このような俊敏で制御された動きをロボットで再現しようというのが、望山さんの研究です。

 素早い動きを作り出す鍵は「柔らかさ」です。そこで着目したのが、「飛び移り座屈」という材料の弾性変形現象。聞きなれない言葉ですが、金属やプラスチックなどの棒や板に力をかけると急激に形状が変化する現象のことです。薄くて細長い金属片をたわませた上で,その一端にゆっくりと力をかけていったとき,ある形状からまったく別の形状へと瞬間的に変形することがあります。柔らかさがあるからこそ、このような瞬間変形が生ずるわけで、これがジャンプ力の源です。このような瞬間変形が繰り返し生ずるために、この金属片とモーターを組み合わせてカードサイズの筐体に取り付けると、重さわずか14gのジャンプロボットの出来上がりです。モーターを動かすと、ぴょんぴょんと飛び跳ねます。足(金属片)の角度を調節すればジャンプしながら前進しますから、階段だって平気です。その様子はカエルそっくり。こんな跳び方をするロボットは世界初です。さらに工夫を施すと、ジグザク走行や旋回、水中をスイスイ泳いだり、いろいろな「小動物っぽい」動きを作り出すことができます。ロボットらしからぬ究極のシンプルな仕組みゆえに、バリエーションも広がります。

 

 座屈は、機械工学では基本的な現象ですが、通常、材料がたわむというのは望ましいことではありません。たとえば、建築物の柱が急激に歪んだり、医療用のカテーテルが血管中で突然たわんでしまうと危険です。この分野の専門家なら避けようとする現象を、積極的に活用しようとしたところが、望山さんの発想のユニークさです。実はこのメカニズムは、2014年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されている、探査ローバーの駆動系の一つとして採用されています。もちろんその開発には望山さんも参加しました。力のかけ具合と変形の様子や、座屈前後のエネルギー変化などを理論的にシミュレーションしながら構造を最適化します。できあがったロボットの姿はおもちゃのようでもありますが、その構造と動きは計算しつくされています。望山さんの専門である制御工学の腕の見せ所です。

 瞬発力を生み出す簡単なメカニズムは、座屈以外にもあります。カメレオンの舌の再現には空気鉄砲を使いました。本物のカメレオンの舌は瞬時に飛び出し、離れた獲物を正確に捕らえます。その仕組みは、生物学的にはまだ解明されていないものの、高速で飛ばすことだけを考えると、空気鉄砲がちょうど良い感じです。先端にマグネットをつけた紐を空気鉄砲から水平に発射し、80cm先で上から落下してくる的をキャッチします。この間、約四分の一秒。的を落下させるタイミングは容易に計算できますが、紐を水平に真っ直ぐ飛ばすために、先端の形状や羽をつけたり回転させたりと、弓矢なども参考にして設計します。結果的に、見かけも原理も全く異なるのに、動きはカメレオンの舌にとてもよく似た装置ができました。小動物の複雑な体の構造そのものを再現しなくても、その特徴的な動きを真似たメカニズムを構築することは可能です。

 生物を再現することはロボット工学の根源的なテーマでもあります。素早い動物の中でも、チータのような大型なものを模したロボットは開発されてきていますが、コンパクトに作る方がずっと難しいのです。瞬発力を出そうとするほど大きな力がかかりますから、それに耐える強度を持たせるとなると、なおさら大変です。建物内の探索やレスキューに役立つような、小型で階段の昇降が素早くできるロボット、いわばネズミのように小さくて小回りのきくロボットが当面の目標です。走る、曲がる、跳ねる、飛ぶ、小動物が見せる自由度の高い俊敏さは、望山さんの興味を惹き続けています。