筑波大学OCW

【女性研究者が探るデータの未来 】“良い道具”であるための研究をしたい

代表者 : 羽田野 祐子  

放射性物質の「動態」を研究する

原子炉の設計や核燃料の製造技術など、原子力エネルギーの工業利用や放射線による測定技術や医療技術など、原子力工学の分野は多岐に渡っている。

羽田野先生が研究している「動態研究」という分野は、大気中に放出された放射性物質が、一定期間でどのように・どれくらいの量が移動するのかを探るものだ。世界ではフランスと日本で盛んに研究が進められている。

羽田野  「原子力発電所で事故があった場合、核分裂生成物(Fission Products)というものが大量に放出されます。その代表的なものがセシウム類(セシウム134/137)ストロンチウム類などです。」

セシウムなど核種と呼ばれる放射性物質の拡散は、事故の起こり方や地形・気象などの環境により様々な動き方をする。たとえば放射性物質の温度が非常に高温である場合、水が蒸発するように放射性物質自体が粒子となって動くこともある。また、放出された物質がとても小さな場合はダストと呼ばれる空気中の塵に付着して動くこともある。

羽田野  「大気中に放出された放射性物質は、地表に沈着したり、雨によって川に流れたり地中に浸透し、また植物に吸収されたり地下水に入ります。これらの物質は最終的には海に流れていきます。また、最近では再浮遊といって、空気中のダストに付着したセシウムが、風によって再び空中に漂ってしまうことも注目されています。」

特に再浮遊は繰り返し発生するため、大気中のセシウム濃度が下がりにくい原因であると考えられている。

長期的な予測の難しさ

核種の動態研究において、長期に渡る動き方を予想することは非常に困難だと言われている。

主な理由は2つ。まず、大気中に放出された核種の動きは、事故が発生した場所の地形や気象環境などにより様々に変化するため、予測に必要な実測データの種類が膨大になってしまう。さらに、そもそも実測データは事故が起こってからでなければ測定する事ができないため、事故発生から長期予測を行うまでには長い観測期間が求められてしまうのだ。

 

これまで実際の観測でわかってきたことは、大気中に放出された核種は、時間が経過するにつれ減衰カーブが緩やかになっていく。(図参照)
つまり、「大気中の核種の濃度はなかなか下がらない」ということだ。これは再浮遊がその原因のひとつと考えられている。

「長期予測に必要なパラメータの種類が膨大」「事故後の短期間では長期予測のためのデータ自体が無い」という条件の中、羽田野先生はそれでも長期予測の精度を上げることは「やらなくてはならないこと」と語る。

羽田野  「長期予測はやらなくちゃいけないことなんです。だって、原子力の事故は普通の事故とは違うんです。原子力の災害はその後何年も影響が残るもので、ひとたび汚染が起こればその10年後まで問題になる可能性があります。とにかく長期の予測が原子力工学には必要でした。」