科研費NEWS:日本学術振興会(JSPS)

パルテノン神殿の彫刻の研究(科研費NEWS_2015_vol2)

代表者 : 長田 年弘  

パルテノン神殿の彫刻の研究(科研費NEWS_2015_vol2)

筑波大学 芸術系 教授 長田 年弘

研究の背景

紀元前5世紀に建立された、パルテノン神殿の装飾浮彫 群の主題は、今日では一般に前5世紀前半に戦われたペル シア戦争を示唆していたものと解釈されています。つまり、 パルテノン神殿は、アジアに対するギリシア世界の勝利を 象徴するモニュメントとして、自由と民主主義を標 ひょう 榜 ぼう する 都市国家アテネを象徴的に表現していたとする意見が強 い。しかし、こうした見方には、欧米の研究者に特有の、 古代ギリシアに西洋文明の源流を認める歴史観が反映して いるのではないかと私たちは考えました。欧米を中心とす る歴史学者には、ギリシア古典文化の研究に関して「偉大 な伝統」があるので、かえってそれが盲点になっているの ではないか。

研究の成果

 共同研究では、前述のようなアジア対ヨーロッパという 二項対立の観点よりも、奉納や祭式という古代宗教の観点 を重視して検討を進めました。現在、ロンドンの大英博物 館に所蔵されているパルテノン神殿フリーズ浮彫には、女 神アテナのための聖衣奉納の儀式場面が表されています。 この作品には、儀式の場所や神々の臨席の描写など、美術 史上の難問が山積しています。成果のひとつは、フリーズ 浮彫の神々の立体復元の試みです。メンバーのひとり、中 村るいさん(高知大学教育学部准教授)が中心となり、東 京藝術大学美術解剖学研究室の協力を得て、浮彫で表され た神々を小像で立体的に復元する作業を進めました。こう して、美術史学と歴史学そして美術解剖学という三分野に またがる総合的な研究を進めました。そして、幸い、平成 24年から25年にかけて、大英博物館のパルテノン彫刻展 示室の隣室(“Parthenon Now”)において、私たちの研究 成果を展示することができました。

今後の展望

 研究結果は、今年度内に、ウィーンの出版社(Phoibos Verlag)から論文集として出版される予定です。また、今 後は、パルテノン神殿が建てられたアテネ、アクロポリス の丘の奉納品を調べる予定です。パルテノンの周囲には、 かつてたくさんの奉納彫像が立ち並んでいたのですが、こ うした彫像は、神殿彫刻の解明について重要な鍵を与えて くれると思われます。日本の調査隊独自の創造的な視点が 得られるはずです。初心に帰って「歴史の見方を変える」 研究を実現しようと話し合っています。

関連する科研費

平成19-21年度 基盤研究(A)「パルテノン神 殿の造営目的に関する美術史的研究―アジアの視座 から見たギリシア美術」 平成23-26年度 基盤研究(A)「パルテノン神 殿の造営目的に関する美術史的研究-オリエント美 術の受容と再創造の検証」 平成27年度 研究成果公開促進費 “The Parthenon Frieze. The Ritual Communication between the Goddess and Polis. Parthenon Project Japan 2011-2014”