JST news:科学技術振興機構(JST)

砂漠の緑化をめざすロープクライマー(JST news 2016.3月号)

草野 都 筑波大学 生命環境科学研究科 教授

メタボロミクス手法を武器に地球の森林破壊はとどまるところを知りません。子供の頃、砂漠化ですみかを追われる動物の姿を図鑑で見て心を痛めました。その痛みはくすぶり続け、「乾燥地研究センター」のある鳥取大学に進みました。
砂漠の緑化をめざして、温暖化や森林伐採の影響について専門の先生と議論するうちにわかったのは、人工緑化の限界でした。目標が断たれたような気持ちになりました。親に借金してバイクを買い、400キロ離れた京都府丹後地方まで飛ばし、連なる山々を眺めてはいたたまれない気分を癒しました。大学院で取り組んだのは、「特定の病害虫だけをたたく選択性農薬」や「植物の生育を促す物質」の開発です。スーツケースほどの大きな培養タンクを上げ下げし、カビから有機物を抽出する肉体労働の日々でした。
鳥取から秋田へと研究場所を移しつつ、1つの物質を純度良く取り出す「天然物化学」の腕を磨きました。
留学したスウェーデンの大学で転機に恵まれました。生物の抽出物を丸ごと分析する「メタボロミクス」の立ち上げを担当したのです。これまでの発想とは正反対です。科学雑誌で報告され始めたばかりで、認めようとしない研究者もいました。しかし、検出機器の精度が上がり、物質を見分ける演算手法が洗練され、統計解析が進んだことで、データ
の信頼性が十分高いことを実感しました。
例えていえば、天然物化学は西洋医学、メタボロミクスは東洋医学でしょうか。メタボロミクスには、試料の質を揃え、人為エラーを極限まで減らす技能が必要です。それまでの手法では誤差に埋もれていた小さな違いを拾い上げ、新しい物質を見つけるのです。全体として複雑に効果が変化する魅力もありました。
今では、私の最大の武器です。この技術に価値を認め、協力を求める研究者も増えてきました。筑波大学内を始め、国内外の研究グループと、トマトやイネ、モデル植物であるシロイヌナズナなどさまざまな植物の品種育成や農薬の改善に挑んでいます。

根っこは変わらず砂漠の緑化

 緑の中にいると落ち着きます。研究仲間からフィールドワークの声がかかると喜んで出かけます。桜前線とともに北上しながら花を集め、遺伝的情報と代謝産物を比べたり、共同研究を通してチリのアタカマにある高山で高度100メートルごとに植物を集め、ミネラルを吸う力と代謝産物の関係を調べたりしています。
 趣味はロープクライミングや登山です。群生する植物を見るたびに、なぜこの環境に生えたのかが気になります。土地とそこに育つ植物の特徴を結びつけると、植物が生きづらい場所を緑化する手がかりが見えてきます。
 衛星写真で砂漠地帯を見ると気持ちが沈みます。幼い頃図鑑で知った砂漠はますます拡大していますが、それでも砂漠の緑化は私の目標です。「なぜそんなにこだわるの?」と聞かれますが、ひょっとして私の「草野」の姓が深い所で声を発しているのかもしれません。これからも植物を育てる人を支え、植物が生きる力を支えたい。

 鳥取、秋田、スウェーデン、千葉、横浜、少しだけチリを経て、つくばへ。各地でさまざまな知恵を吸収しました。どこに行っても「住めば都」です。研究者をめざす方には、たとえ夢の形が変わっても、その根っこは変えないでほしい。途中で道草をくっても、じっくりやれば根っこは育ちますから。