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#062:サービス・ラーニングで社会参加のためのネットワーク構築を(2016.07)

人間系 唐木 清志(からき きよし) 准教授

 「社会」に関連する教科目は、小学校と中学校では社会科、高校では歴史地理科と公民科に分かれています。教科全体の目的は「公民的資質の育成」、つまり社会で起こっている様々なことに関心を持ち、その中で生じる課題をどう解決するかを考えることのできる児童生徒の育成です。18歳選挙権が導入され、主権者教育に注目が集まっていますが、18歳を目前にして唐突に主権者と言われても戸惑ってしまうでしょう。唐木さんは、初等教育から主権者教育を取り入れ、社会に対して目を開くことが重要だと言います。

 小学生に主権者教育は早くない? いえいえ、早すぎることはありません。そもそも主権者教育は、政治に限らず、社会の一員として世の中に関わっていくためのものです。たとえば清掃工場や浄水場の見学などは、自分たちが暮らす社会の仕組みを知るための入口です。ごみの分別やリサイクルの現場を訪れ、小学生なりに身近な問題から意識を高めていくことが、中学、高校へと進んだときに、環境やエネルギー問題に対する関心、さらには政治や選挙への参加意識の醸成へとつながります。一方、家庭科や国語などでも、消費者教育や人権問題など、主権者教育と関連する内容を扱う教材があります。小学校は、他の教科と連携した授業を組み立てやすいため、主権者教育の導入の場として最適なのです。教育の段階に応じた系統的な社会科の学びを設計することが、唐木さんの研究テーマです。

 選挙で投票するのも、被災地でボランティア活動をするのも、町内会のゴミ拾いに行くのも、どれもみな「社会参加」です。主権者教育はその延長線上にあります。ただし社会参加しようという気持ちは一朝一夕に芽生えるものではありません。時間をかけた教育が不可欠です。ではどのような教育が有効なのでしょうか。唐木さんは2015年度の1年間、アメリカのポートランド州立大学に滞在し、社会貢献活動を組み込んだユニークな教育カリキュラム「サービス・ラーニング」の実地調査をしました。オレゴン州ポートランド市は、60万都市でありながら、市民が自治を主導していることで世界的に知られた都市です。スローライフの環境まちづくりでも有名です。

 サービス・ラーニングを正式に導入すれば筑波大学の強みになると熱く語る。

 ポートランド州立大学では、6単位のサービス・ラーニングが必修化されており、しかもその対象が卒業を控えた4年生であることが大きな特徴です。専門的に学んできた知識や技能が、現実の社会でどのように役立つのかを試す集大成の機会として設定されているのです。異なる専門分野の学生たちがチームを組み、地元のNPOなどの協力も得て、互いに知恵を出し合い、議論しながら活動を企画し、地域の現場で実践していく。このようなカリキュラムは、初等教育段階から社会参加の意識を培っているからこそ可能となります。同時に、授業をサポートする学内外のネットワークを構築したり、活動中や振り返りの場での発言などを適切に評価したり、指導する側の力量も求められます。日本でも、ボランティアなどの社会貢献活動を単位化する動きはありますが、多くの場合、専門分野を決める前の総合科目として位置づけられています。しかし、それは、体験を通して得られる学びという点で、ポートランド州立大学の取り組みとは大きく異なるものです。

 大学に進学した当時の唐木さんの夢は、小学校で社会科を教えることでした。新しい知識をどんどん吸収する子どもたちの成長の瞬間に立ち会い、可能性を広げる手助けをする仕事には、今も憧れがあります。大学では、ボランティアや地域貢献に関わる多くの若者と接し、より良い社会をつくりたいという彼らのエネルギーを感じています。そのエネルギーを引っ張り出すような教育があれば、ことさらに社会参加を強調しなくても、社会のを創り出す力が自然と生まれるはずです。市民を育成する場としての教科「社会」をもっとおもしろくしたい。日本型にアレンジしたサービス・ラーニングの導入がその鍵となるのではないか。小学校から大学まで、学校という枠組みを超えて、唐木さんの構想は広がっています。

 アメリカでのサービス・ラーニング教育の取り組み。
 左:環境にやさしい農業について小学生に説明する大学生。大学に戻って活動の振り返りも行う。
 右:スクールバスの混雑緩和策についてグループ学習を行う中学校生。学習プログラムには、地元の教育委員会への提言まで予定されている。

 (文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)

(2016.7.26更新)