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#059:依存症・虐待の負の連鎖を断ち切りたい(2016.05)

医学医療系 森田 展彰(もりた のぶあき) 准教授

 アルコール依存症と急性アルコール中毒は違います。依存症は、やめられない、止まらないことが問題なのです。森田さんの話では、その背景には心理的な要素と社会的な要素があるそうです。ある種の薬物やアルコールを摂取すると、脳内の快感ホルモンが活性化します。それにより、心の欠損している部分が埋められる体験が悪循環を招くのです。専門的には、自己治療的に摂取しているという言い方もします。しかし、影響は本人に留まらず、周囲も巻き込んでいきます。暴力に発展することもありますし、家族がトラブルをもみ消すことで、依存が続けられるのを助けてしまうケースが多いそうです。

 スポーツ選手のギャンブル依存も話題になっています。センセーションを求める性向は、スポーツ選手や超人的なことに挑戦する人にありがちだそうです。社会的なモラルに対する挑戦が刺激になるという側面もあります。しかし、損失をギャンブルで取り返そうとするうちに、悪循環に陥ります。この場合も、周囲が金を貸したり、スキャンダルをもみ消すと、周囲の承認を受けたような形になり、どんどん深みにはまっていきます。


 児童虐待の予防・早期介入システムを開発する研究も行っている

 社会が依存症を増長しがちな背景には、依存症をモラルの問題としてとらえがちなこともあるそうです。「悪いことは言わないからやめなさい」と言われても、依存症患者にしてみれば、悪いと思ってもやめられないのが現実なのです。しかも本人は、自分にも他人にも嘘をつき、たいした問題ではないと否認しようとします。依存症が、人格やモラルの問題ではなく病気として認識されるようになったのは、1970、80年代のことだそうです。治療にあたっては、本人と家族の自覚が欠かせません。

 森田さんが薬物依存症の診療と研究に取り組むようになったきっかけは、駆け出しの精神科医として勤めた病院でした。先輩医師が薬物依存症治療の病棟を立ち上げていたのです。それを手伝い、さらには異動してしまった先輩医師の跡を否応なく引き継ぐことになりました。苦労の連続でしたが、回復した患者さんの印象ががらりと変わる体験を重ねるうちに、やりがいを感じるようになりました。やがて、依存症が世代を超えて連鎖する事例に気づきました。さらには、家庭内における暴力による支配、いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)も世代間連鎖すること、DVには薬物依存が伴っている場合も多いことに気づきました。薬物やアルコール依存の親に困らされた子が長じて同じ依存症になる連鎖も知られています。虐待の世代間連鎖も知られています。被害者が加害者の側になることで快感を覚えるようになり、依存症に発展するのです。


 虐待の世代間連鎖が生じる構図。虐待を受けて育ったことで受けたトラウマを物質の薬理効果で
 晴らすうちに依存が成立する。さらに、被虐待経験や依存症をもつ人が親になって子どもを虐待
 する可能性が高くなる。

 虐待は暴力だけではありません。相手を支配するために、細かいルール(おかずは必ず3品作れ、出来合いは使うな等々)を決めたり、生活費を制限したり、相手の落ち度を見つけては冷静に追い詰めていくタイプまでいるそうです。相手が謝っても効果はなく、むしろエスカレートしていきます。そうしたこともあって、DVでは、被害者が自責的な場合が多そうです。教員の体罰依存では、自分の権威を誇示するため、手っ取り早い解決手段として暴力に依存していきます。

 治療は、薬物・アルコール依存の場合も、DVの場合も、まず本人の自覚を引き出す面接から始まります。そして心理療法や、元患者(ピア)が関与する自助グループによる治療などに移ります。DVの加害者には相手と適切なコミュニケーションをとるためのプログラムがあります。森田さんは、薬物依存の受刑者向け治療プログラムの作成にもかかわっています。あるいは東京都教育委員会から体罰防止のための教員研修プログラム作成の依頼も受けました。依存症の治療は、限られた専門病院が中心となります。そのため依存症患者の治療に接する機会が少ないこともあり、この分野を志す医学生はほとんどいません。医学生に限らず、依存症に悩む患者の回復に立ち会えるやりがいのある分野として、ヒューマン・ケアの大切さを広く伝えていきたいと、森田さんは静かに情熱を燃やしています。

 (文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)

(2016.5.30更新)