聴(Tsukuba Communications)

世界遺産を通して 持続可能な社会の達成に貢献する

文化遺産・自然遺産の保護と 世界遺産条約

国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が設 立されたのは1 9 4 6 年。その根拠となるユネ スコ憲章には、設立目的の一つとして「世界の遺 産を保存・保護する4止fめの必要な国際条約を
勧告する」守主示掲げられています。これが「、世 界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する 条約(世界遺産条約)」という形で具体化され たのは1 9 7 2 年。長い時聞がかかりました。 2
度の世界大戦とその後の復興プロセスの 中で、多くの貴重な文化遺産が失われてしま いました。また戦争が起きて壊されるととに生J てはいけない。文化遺産の保護は、平和構築の
プロセスとも関係してユネスコの重要な役割で
す。しかし、資金を Eこから集めるか、誰が何を
するのか、その仕組みを考えることはどうも容 易ではなかったようです。ただしその聞にユネス コは何もしていなかったわけではありません。ま さに武力紛争時に文化遺産を守るための条 約が1 9 5 4
年に、また文化遺産の不法輸出
入を止めるための条約が1 9 7 0 年に、それ ぞれ必要に応じて個別に作成されています。 現在の世界遺産条約は、1 9 6 0 年代にエジ プトのヌピア遺跡を国際キャンペーンで開発か
ら守った経験をもとに、国際協力のための恒 常的な仕組みがやはり必要であるとして準備 が始まりました。文化遺産の保語はまずはそ の固の問題です。ある固の文化遺産について、
他の固が守るよう要求する乙とは主権侵害に なります。しかし、国際条約に基づいて各国政 府が主体的に申請し登録された文化財であ れば、他国がその保護を支援する理由が成立
します。世界遺産条約は本来、制度や資金が 不十分な国々で危機に瀕している文化財を国
際協力で守るという目的を持3 、いるのです。

政策ツールとしての 世界遺産条約の役割

世界遺産の定義は「世界の人が共通して守 るべき顕著な普遍的価値を持つもの」。美しい ものや高価なもの、鑑賞するためのものとは限 りません。当初は、国際的にもよく知られた古

い遺跡や建築だけが登録されていましたが、世 界各地号イノリテA 文化も大事に 主 うとい
う考えから、また欧米への偏重を改めようとの 考えから、世界の文化と自然の多様性を改め て見つめなおす方向にシフトしてきています。そ れは1 9 9 0 年代に入3一、から始まりました。
とれは、遺産保護の国際的な潮流とも呼応 し三一ます。文化遺産保護のすそ野が広がり、文 化遺産をオリジナルの状態で厳密に維持管理

する凍結保有たけでなく、人々の生活や地域の
発展を阻害せずに街並みや景観を保全する
「持続可能な開発」に貢献する文化遺産・自然 遺産も重要たとり24V4与イトです。前者は専門
家の仕事ですが、後者の 受 母 、地域住民を巻 き込ん主 主ラくりの7 2 Z赤不可欠です。
地域お手 年 観光地のずフンドとして世界遺 産登録を目指すのは世界的傾向ですが、その 申請は政府にしかできません。世界遺産に申 請するとりつととは、観光客の涜入も考慮した
地域の発展と文化資源・自然資源の保全を
両立させる長期的な開発スト-Z Zンーをつくる と、診の国が国際的に約束することなのです。

国際専門家の役割

世界遺産はブランドとして定着しました。そ れは制度が成長した証でもありますが、文化 遺産・自然遺産の保護の機能がきちんと果た されているかとり?と、まだまだ問題は山積して
います。条約の理念が忘れられ単なる観光ガイ ドになりかねない懸念はもとより、新興国の台 頭に伴う無秩序な開発競争や、世界各地明翁 発する武力紛争によって、世界遺産も含めた
多くの宝が今も破壊され続けています。
世界遺産委員会では2 0 1 2 年、マリ共和 国での総争に際して、こ宅金ノな破壊行為に対
する非難声明を山叫しました。けれどもその効 力がEこまで及んたのかは分かりません。長年、
国内の申請準備や世界遺産委員会での登録
審査ド接 わり、る 声明の作成にも参加し 菌 際専門家と・与ほ、樹県 bい思いもあります。 毎年、加1 却件の世界遺産が新たに登録さ
れる中で、世界遺産に対する考え方も少’Kず つ変化しています。ユネ弓毛国際専門家は、国
際関係や世界経済も踏まえて、世界の文化財
保護-Tズを見極めると同時に、危機的な状況 にある文化財の保護や持続可能な開発という
本来の目的に立ち返ぞ 、これすりの世界遺産 条約の方向性を見直す岐路に事ヂれます。

持続可能な開発のカギは
「仕組町け人」

文化遺産の保護というと、美術品の修復な
どの職人的技鎗をまずはイメージしがちです が、広く-Tズがあるのは国際協力や地域おこ
しのコ1ディネ1トができる人材。例えば、ある
遺跡の保護を支援しょ?とすると、発掘調査 だけでなく、その文化的価値の評価、建築の保 存・修復、周辺地域のインフラ整備、さらには 観光開発まで含めた総合的な活動が期待さ れます
。それぞれの専門家を集め、地元の 人々も交えずさラポレlション・をしなければ、適 切な文化財保種や持続可能な開発はできま せん。それを実現するカギは全体のコーディ ネータ1「、仕鋳け人」の存在です。
仕掛け人は、その地域の事情に精通している だけでは務まりません。建築・土木・化学・生 物・環境・考古・美術創作などの分野の基礎 的な素地の上に、文化財や自然資源の保存、
公共政策、国際協力といった知識も持つ、まさ に学際的な専門性が要求されます。
世界遺産条約の理念は、規模の大小にかか わらず、世界中のまちづくりや文化財保護活 動のお手本になるものです。仕掛け人としての 専門人材を育てつつ、文化遺 産 自然遺産を
守るという本来の役割に加え、自らもフロノト
-7ノナ!として持続可能な開発の理想形を追 求しています。

 

稲葉信子教授(芸術系)