聴(Tsukuba Communications)

小さな命をひとつひとつ救う 医療の最前線を支える大きな信頼と判断力

前倒のないケースに撹む

生まれつき心臓の右心室と左心室の聞の 壁に穴が聞いている病気(心室中隔欠損)は 珍しいものではありません。通常は生後、体 重 3 i 4 培に成長するのを待って手術を行
いますが、乙のケ lスでは l hほEの極小未 熟児で生まれ、その直後から命にかかわる
状態に陥りました。かつてない低体重の手術 ですが、すぐに処置しなければ予選れにな るととは明らか。決断はひとつしか残されて いませんでした。
しかし、あまりに小さな赤ちゃんです。心 臓の大きさはウズラの卵ほE 。さすがに直接
メスを入れるのは困難でした。そ乙で最初に 行ったのが肺動脈にテl プを巻いて肺への血 流を絞る手術です。手技自体は一般的なも のですが、太さ数ミリの血管、しかも周りに
ほとんどスペースのないところヘテI プを回 すのは至難の葉。ちょっとでも傷をつけたら アウトで 1皿の誤差も許されない、そんな緊 迫した作業でした。
4 か月後、3 同弱にまで成長した段階で
2 度目の手術を行いました。今度は心臓の
穴を直接ふさぎます。人工素材でできたパッ
チをあて、周囲を糸で縫い付けていきます。 手芸と同じ要領ですが、やり直しはききませ ん。ひと針ひと針が真剣勝負。それを 日 l 泊
分ほどで終わらせる手際のよさも必要です。 手術は成功したものの、容態は安定しませ んでした。その日のうちに心臓が止まってしま い、心臓マッサージと補助循環装置で 6 日閥、
なんとか命をつなぐことができたのです。その 後は徐々に回復に転じ、3 か月後には元気に 退院していきました。振り返ると、奇跡がい
くつも重なったようなケlスでした。
チーム力が発揮される小児 I C U

このような治療は外科だけではできませ ん。生まれたばかりの赤ちゃんを最初に助 けるのは新生児科です。点滴を入れたり、 人工呼吸の管を通したり、それを新生児用
のカプセルの中で行います。まさにボトルシッ プ細工のような繊細な作業です。それから 外科医の出番。手術室には、執万医の他に 麻酔科医、人工心肺などの機器の技師、看 語師 、アシスタント、最低でも 7
1 8 人の チlムが必要です。術後のケアも含め、それぞれがプロの仕事を 1 2 0 % 果たして初め
て、一つの治療が成功するのです。 治療の舞台となったのは筑波大学附属病
院の小児 I C U(小児救命救急センター)。 未来ある子どもたちを救う重要な施設で すが、病院ビジネスの面ではコストパフォーマ ンスが悪く、全国的にも整備は進んでいませ
ん。そんな中で厚生労働省との交渉や病院 内の調整に奔走し、2 0 1 3 年 1 月に開設 されました。囲内で 8ヶ所しかないうちの、 一番新しい施設です。
乙のセンターは高度救命救急医療に特化 しており、他の病院では治療ができない重篤 な小児患者を扱います。ですから受け入れ の要請は絶対に断りません。すべての科がい
つでも対応できるよう待機しています。8つ のベッドはほぼ常に満床。とれからの医療を 担う若い人たちにとっては、命を救う先頭に たつ自覚とモチペlションを培う魅力的なユ ニットです。

「ノプレス・オプリlジユ」の心で
医療には、知識や技術・設備だけでなく、 コミュニケーションも不可欠です。特に小児 I C U では、短時間で患者の両親との信頼 関係を築かなくてはなりません。うまくい
くとは隈らない子術に同意するか、治療法
の遺択肢がほとんE ない状況で判断を迫ら れる両親には、医学的な細かい説明より
も、その手術が子E もにとってどれほど重要 か、そして、何としても助ける、という医師の 誠実で強い気持ちが頼りです。
もちろん、小さな体に傷をつけるためらい や、自分の患者が命を落とすようなととは避

けたいという思いはあります。その葛藤やプ レッシャーを乗り越え、患者に対して最善を尽 くす高い志とリスクを負う覚悟を持つ。ぞれ がプロフェッショナルたる医師が果たすべき責務
「ノプレス・オプリ1ジユ」の精神であり、患者や チ1ムの信頼を得る第一歩なのですロ

一番遣いところを目指す

外科は患者の体に最も直 接的なアプ ローチをする医療です。その中でも心臓外 科の遭を運んだのは、一番難しそうに見えた から。心臓はまさしく命にかかわる臓器で、
病気の症状もさまざま、治療のテクニックや 道具も多彩なうえ、複雑な思考プロセスや 判断力が求められます。最初はとても無理 だと思いましたが、だからとそ自分にとって
一番遠いととろへ行ってみようと決心しまし た。
小児専門の心臓外科はさらに難しい分野 です。成人とは遣い、先天性の疾患を扱う ため手術のバリエーションも多く、どれもが 初めてのケ lスのようなもの。ぞれを、多い 時には一度に 4 1 5
人の患者を担当し、そ れぞれの治療方針や経過のととを常に案 じ、手術の前にはイメージトレーニングを繰 り返します。過去の症例や経験に基づいた 判断でも、それで正しいのか、毎日が緊張の
連続です。それだけに、命を救う達成感は 何にも代え難いものがあります。
大学は教育の場ですが、実際の医療は教 科書通りにはいきません。医療現場での自 らの姿を過してしか伝えられないこともあ
ります。医師というのは地道な仕事。一度に一
人しか助けることができないも E かしさも 感じつつ、それでも、医学生にとっての目指 す姿、越えたいと思える存在でありたい、そ の願いを秘めてさらに遠くへ歩み続けます。

 

平松祐司教授(医学医療系)