注目の研究

腫瘍血管新生における低分子量G蛋白質Arf6の生理機能の解明 ~Arf6シグナル伝達系を標的とした新たな抗癌剤の開発に繋がる可能性~

2015/08/25

筑波大学 医学医療系 本宮綱記助教、船越祐司助教、金保安則教授らの研究グループは、国立循環器病研究センター研究所の福原茂朋室長・望月直樹部長の細胞生物学グループほかとの共同研究により、遺伝子改変マウスを用いた解析を行い、血管内皮細胞に発現する低分子量G蛋白質Arf6が腫瘍血管新生において重要な役割を果たしており、腫瘍の成長に深く関わっていることを明らかにしました。

腫瘍の成長には、血液からの酸素や栄養素の供給が不可欠です。そのため癌細胞は、様々な血管誘導因子を放出することで、周囲の既存血管から毛細血管を新生させて腫瘍に進入させる、「腫瘍血管新生」を誘導します。したがって、腫瘍血管新生を抑制することによって腫瘍の成長を阻害できるため、現在までに種々の腫瘍血管新生阻害剤が開発されてきました。しかし、現在臨床応用されている腫瘍血管新生阻害剤はその治療効果が限定的であり、より効果的な抗癌剤の開発が必要とされています。

本研究グループは、細胞内小胞輸送や細胞運動を制御する低分子量G蛋白質のArf6に着目し、血管内皮細胞のArf6遺伝子欠損マウスを用いた個体レベルの解析により、Arf6が腫瘍血管新生に重要な役割を果たすことを明らかにしました。また、Arf6は、癌細胞が分泌する肝細胞増殖因子(HGF)により誘導される腫瘍血管新生を制御していることを見出しました。さらに、HGFシグナルの下流ではGrp1と呼ばれる蛋白質がArf6の活性化に寄与しており、活性化したArf6は接着分子であるb1 integrinの細胞膜への輸送を制御することで腫瘍血管新生に関与することを明らかにしました。この結果は、Arf6シグナル伝達系が血管新生阻害剤の新たな創薬標的として位置づけられることを意味しており、今後新たな抗癌剤が開発されることが期待されます。

 

 

図 腫瘍血管新生におけるArf6の機能モデル

癌細胞は種々の血管誘導因子を分泌して周囲の既存血管を刺激することにより腫瘍血管新生を誘導する。血管内皮細胞において、Arf6はHGFシグナルの下流でGrp1により活性化され、b1 integrinの細胞膜への輸送を制御している。細胞膜に輸送されたb1 integrinは細胞外マトリックスとの接着を介して血管内皮細胞の遊走を駆動する。このようなArf6の機能は、Grp1を阻害する化合物SecinH3によって阻害することができるため、腫瘍の成長はSecinH3の投与によって抑制することができる。