筑波大学生物学類教員紹介

小さなハエの大きな未来

代表者 : 丹羽 隆介  

丹羽 隆介先生

一つの卵から複雑な体を作り上げる生物たち。段階ごとに大きな変化を遂げます。あるホルモンに焦点をあてて行われた、
“体作り”の研究から見えてきたのは、ヒトと昆虫の共通点です。小さなハエの研究で、ヒトを調べている研究者の刺激になりたい、そんな思いで研究を進める、丹羽隆介准教授にお話を伺いました。

不思議な“体作り”の世界を研究する

動物では、細胞が協調しながら発生し、卵から大人になるまで体を作り上げています。どうしてこんなに、うまくできているのでしょう?卵と精子が受精して1つの受精卵になります。受精卵は、受精直後に特徴的にみられる、卵割と呼ばれる細胞分裂をおこない、細胞の数を増やして立体的な組織や器官を作り上げ体となります。「1個の卵、何の変哲もないただの丸いボールみたいなものからわれわれの体がちゃんと出来上がっていく過程っていうのは、当然のことながら不思議なポイントがいっぱいあって、多くの研究者が研究をしてきています。私もこの不思議さにひかれた一人です」。そう話を始めたのは、筑波大学生命環境系 丹羽隆介 准教授。丹羽先生は時間の経過と構造の変化の関係について研究されています。

時間っていうのはすごく重要なんだ

今の研究に興味をもったきっかけは2回あったと丹羽先生は言います。ひとつは、修士の学生の時に、たまたま読んだある論文。発生のイメージを大きく変えるものでした。もうひとつは、ショウジョウバエの翅に集合する、ある物質を調べていたときのことです。室温25℃の中で飼育していると、いつも蛹になってから30時間後に目的の物質が集まりました。「28間でも、32時間でもなく。25℃で飼っている限りはちょうど30時間なのです。これが、不思議で不思議でしょうがなくなり、時間というのはすごく重要だと感じました」。

昆虫のホルモンからみえてきた「ヒト」

 

現在、丹羽先生は「エクジステロイド」と呼ばれる、ほぼすべての昆虫が持つホルモンについて研究されてます。エクジステロイドは、脂質から作られるステロイドホルモンの一種で、昆虫が脱皮変態を行う時に、このエクジステロイドが分泌されます。それだけでなく、交尾前後でも分泌されることが丹羽先生の研究からわかりました。交尾を刺激としてエクジステロイドが分泌されることで、卵を作り始め、子孫を残すことができるようになります。
ステロイドホルモンは、人をはじめとした多くの動物が持っています。人のステロイドホルモンは思春期に分泌され、子孫を残すために必要な第二次性徴がおこります。つまり、こんなにも姿の違う人と昆虫で、ステロイドホルモンが似たような働きをしていると言うことができるのです。

下等な生物もまだまだ活躍できる

 

では昆虫の研究をするのでしょうか?「昆虫なんか研究して人で役に立つの?という意見はすごくわかります、だって全然違う生物なのですから」。20世紀後半、線虫などのいわゆる下等と言われる、体のつくりが単純な動物を使った研究がノーベル賞をとり、人の研究に寄り添っていました。しかし、研究は進み、下等な生物たちを使った研究は、どんどん理解されにくくなってきています。「直接、人を理解しようとするわけではないですが、人を研究している人たちにも参考になる部分が必ずあるだろうというのが私の信念のひとつです。下等な生物たちはまだまだ活躍できる。ショウジョウバエを研究している私たちの持つ力は、人にも通じるシステムを下等な生物でみつけ、人の研究者に脊椎動物でもやってみようと思ってもらえるような刺激を与えることなのです。」

大学は新しい考え方に出会える場所

先生は、学生時代に聞いて、いまだに心の中に残っている言葉があるそうです。それは「遺伝学は引き算の生物学」。この言葉によって生物学に対する考え方を大きく変わり、新しい考え方に胸を躍らせました。「高校生のみなさんには、ぜひ視野広く勉強してほしい。高校のときには考えられなかった知識と方法論を、大学では学べるはずです。生き物に少しでも興味のある人であれば必ず驚きと興奮に満ちた生活を送れるでしょう」。そう、未来の生物学類生に言葉を残してくださいました。

【取材・構成・文 生物学類2年 田島由佳子】

PROFILE

 

丹羽隆介 准教授

生命環境系所属 進化遺伝学分野
研究テーマは個体の成長と発生のタイミングに
関する分子遺伝学的研究

研究室HP https://sites.google.com/site/niwashimadalab/