TSUKUBA FUTURE

#076:野球を科学する

体育系 川村 卓 准教授

 見ようによって野球はのどかなゲームです。3時間の試合でボールが動くのは20分程度。あとの2時間40分は、ピッチャーの投球間かチェンジの間合いです。しかしよく観察すると、野手は投球に合わせて守備位置を変えたり、出塁者をけん制したりしています。攻撃側も、投手の配球を読んだり、作戦をしかけたりと、水面下で動いています。そしてさまざまな局面で、選手一人ひとりの力量が問われます。野球は典型的な団体競技と見なされていますが、それと同時に個人競技としての側面も大きいのです。また、国によって野球の質の違いもあります。日本の野球は守り重視で、いかに点を取られないかを重視します。それに対してアメリカの野球は、点を取られたらそれ以上に取り返せばいいという考え方だと、川村さんは語ります。あるいは、投球に関して、日本はボールのきれいな回転にこだわりがちです。一方、メジャーリーグでは、打者の手元で変化する不規則回転のボールが評価されるといいます。また、日本の少年野球では、野球のいちばんうまい子がピッチャーになることが多いようですが、たとえばキューバでは、みんな打席に立ちたがるので、いちばんうまい子はショートを守り、あまりうまくない子がピッチャーになるそうです。


 打撃論にも熱が入る

 そういう日本式野球では、ピッチャーがいちばんの花形です。それに対して守備陣の中で唯一全員と相対しているキャッチャーは、地味な存在ですが、じつは戦術を操る司令塔です。選手時代の川村さんの主な守備位置はキャッチャーと外野手でした。札幌の公立高校としては半世紀ぶりに夏の甲子園に出場した札幌開成高校ではキャプテンで一番バッター。強豪の津久見高校(大分)を相手に1対4で敗れたものの、剛腕川崎憲次郎投手(後にスワローズで活躍)に11安打を浴びせました。その秘訣は、事前に全員で検討した試合ビデオで川崎投手の投球の癖を見抜いたことだったといいます。その頃から川村さんはデータを分析したり、仲間にアドバイスしたりするのが好きだったそうです。それもあって、プロ野球からの誘いもあったものの、スポーツ科学を学べる筑波大学に進学して指導者になる道を選びました。現在は筑波大学野球部監督を務める一方で、コーチング研究のほか、投球動作と打撃動作を主にそれぞれのバイオメカニクス(生体力学)を研究しています。ピッチャーに必要なのはしなやかさ。それに対してバッターに必要なのは強靭な筋肉だといいます。ふつうこれは両立しないのですが、ファイターズの大谷翔平選手はその例外中の例外と川村さんは分析しています。

 主要な研究方法は、投球や打撃をハイスピードカメラで撮影し、体の使い方を分析するというものです。川村さんの元には、プロ野球選手がアドバイスを求めにやってくることもあります。プロの場合はともかく、学生選手に対しては、短期的に改善すべき点と、選手寿命を延ばすための長期的な改善点に分けた指導をしているそうです。かつて、野球選手の指導は個々の指導者の経験に基づいたやり方がされてきました。その中には優れた方法ももちろんありましたが、なかには思い込みによる無茶な指導もありました。川村さんは、そうした経験知を集積して理にかなった方法については科学的な裏付けをとるようにしてきました。学生野球で酷使されて選手寿命が早まった例が増えれば、子供たちの野球離れにもつながります。一流選手が必ずしもすぐれた指導者になれるとは限らないのは、経験知を言葉にするのが難しいからかもしれません。その克服には、主観ではなく、体の動きを客観的に見直す視点が大切です。そうした指導法の研究成果にひかれ、川村先生の研究室には、元プロ野球選手も大学院生として社会人入学してきます。

川村さんは、野球好きの少年少女を対象にした「科学的少年野球講座」という短期集中合宿も実施しています。年代に応じた指導法で野球の基本技術を教えると同時に、礼儀や食育の指導を行う内容です。野球はさまざまな動きが要求される総合スポーツです。筑波大学の学生を見ていても、野球経験者は他のスポーツ種目もうまくこなすそうです。野球選手にはならなくても、野球を入り口としてスポーツを楽しむ子供たちが増えることを目指しています。

 試合前のノックでも