筑波大学OCW

【病院とアート】アートコーディネーターの役割と未来

【病院とアート】アートコーディネーターの役割と未来

2016年4月10日 at 5:19 PM

筑波大学附属病院
アートコーディネーター
渡辺 のり子
 
筑波メディカルセンター病院
アートデザインコーディネーター
岩田 祐佳梨
 

本特集ではここまでに筑波大学における病院アートのさまざまな活動を紹介してきたが、病院アートを実施するにあたって、重要な役割を果たしているのが「病院アートコーディネーター」の存在だ。芸術側の「作品を創りたい」という想いと病院側の「こうしてほしい」という要望や事情、そのどちらのバランスが偏ってもプロジェクトは進められない。医療・福祉と芸術などそれぞれの専門分野の間を橋渡しして、プログラムを高いレベルで成功に導いていく。病院アートコーディネーターの仕事とはどんなものなのか、筑波大学附属病院所属の渡辺のり子さん(2010年度卒業)、筑波メディカルセンター病院に所属している岩田祐佳梨(博士後期課程在籍)さんに話を聞いた。

筑波大学付属病院でのアート活動

渡辺「2013年の1月に附属病院に新しい棟が建ち、そこに芸術作品を常設展示していこうという話が持ち上がりました。それまでもADPの取り組みで学生たちはワークショプなどをやっていましたが、常設展示という状態でアート作品の展示を行うのはその時が初めてだったんです。そうなると今までの関わり方とは異なり、定期的に作品を管理する人材が必要になったんです。そこで私が配属されることになりました。今では作品展示やワークショップをやりたい学生と病院の間に入って、現場と調整をしていくという仕事になっています」

橋渡し役、とはただの伝令や御用聞きではない。制作サイドの企画内容に不安な点が見られた場合でも、企画内容と病院内の条件や諸事情を理解した上で、不安を解決するため制作者に適切なアドバイスを行ったり、病院業務に支障が出ないよう根回しと確認を丁寧に遂行していく。
 

筑波大学附属病院 アートコーディネーター
渡辺 のり子

筑波メディカルセンター病院でのアート活動

筑波大学附属病院ではワークショップやイベント企画、作品展示を多く展開しているが、筑波メディカルセンター病院でのアート活動は空間デザインや日常的に使用するプロダクトの提案、建築デザインの提案に特色がある。

岩田「アートコーディネーターは、イギリスの多くの病院に在籍しています。病院でアートプロジェクトをしたり、内装や家具の総合プロデュースをする役割なんです。日本にはまだあんまりいない職業ですね。2011年に私が勤務する前は芸術系の教員や病院職員は、どのようにプロジェクトを進めればいいかを模索している状況でした。私は建築を専攻していたこともあり、アートとデザインのコーディネーターを担当し、プロジェクトマネジメントを行うことになりました。私だけではできないので、病院の広報担当の職員と一緒に運営しています」
 
筑波メディカルセンター病院でのアートプロジェクトの始まりは2007年、ADPの中で生まれ、現在はデザイングループ「パプリカ」が活動している。当初は検査室の廊下の装飾や待合スペースのテーブルなどプロダクトデザイン提案。そこから空間全体の改修に発展していった。どのプロジェクトも長期間の取り組みであり、当然芸術側だけでは実現することは不可能だ。様々な条件や価値観をもった組織と連携していくために、提案にあたっては綿密なリサーチとデータ分析を行うよう指導し、関係各所との合意形成へとつなげていく。
 

筑波メディカルセンター病院 アートデザインコーディネーター
岩田 祐佳梨

アートマネジメント人材の育成

「いきいきホスピタル」の活動の真の目的は、病院におけるアートマネジメント人材を育成することにある。渡辺さん、岩田さんは病院と芸術の架け橋として活動するだけでなく、国内における病院アートマネジメントのさきがけとして学生を指導し、病院職員への影響を与えている。二人が抱く病院アートの未来とはどんなものだろうか。

 
 
 
これからの社会では、高齢化に伴い確実に医療の高度化・複雑化が進んでいく。医療と生活の関係をよくするためにアートやデザインの力が注目される日も遠くはないはずだ。アートマネジメント人材の成長に期待するとともに、病院アートの裾野を広げ、持続的な活動につながる枠組みの設計も非常に重要である。
 
日 付: 2016年4月10日
 

タグ: 岩田祐佳梨, 渡辺のり子, 病院とアート