TSUKUBA FUTURE

#068:南極で銀河の起源を探る夢を追う(2016.12)

数理物質系 新田冬夢 助教

 筑波大学は、直径10mの口径をもつ電波望遠鏡を南極に設置するプロジェクトを進めています。よりによってなぜ、南極なのでしょう。そういえば、すばる望遠鏡はハワイ島のマウナケア山山頂(標高4,205m)に設置されています。アルマ望遠鏡は、チリ北部アタカマ高地の標高5,000m地点に設置されています。いずれも過酷な土地です。たとえば、われわれの目に見える光である可視光で宇宙を観測する場合、晴天率が高く、大気の影響で星の像がまたたかないことなどが重要となります。大気の影響を避けるためには、望遠鏡を宇宙に打ち上げる方法もあります。1990年にNASAが打ち上げたハッブル望遠鏡がそれです。一方、地上からの観測では前述の条件に当てはまるマウナケア山山頂のような、大気の薄い高所に望遠鏡を建設します。それがすばる望遠鏡です。このように、観測する光の波長に適した場所を選ぶことが重要になります。


 一方、星の材料となるような銀河中の低温の固体微粒子(ダスト)は、赤外線を放射します(ダスト放射)。その性質を利用するのが赤外線望遠鏡で、赤外線望遠鏡を用いれば、遠くの銀河からのダスト放射も観測することができます。ところが、さらに遠いところにある、ダストを大量に含んだ生まれたての遠方銀河は、赤外線を使った観測でも見ることは困難です。そのかわり、宇宙の膨張による影響で、遠方銀河から届くはずの赤外線は引き伸ばされることから、テラヘルツ波(テラヘルツTHzは周波数の単位で、1012へルツ、1THzは波長0.3mm)やサブミリ波(波長が0.1~1mmの電磁波――0.3mm以下の波長はテラヘルツ波とも呼ばれる)で観測できるようになります。この波長の光(正確には電磁波)を観測すれば、はるか遠くの銀河も「見える」ようになるはずです。ところがそこにも問題があります。テラヘルツ波やサブミリ波は、大気中の水蒸気に吸収されやすいせいで、地上での観測は困難なのです。ただし、高地は低地に比べると乾燥しています。アタカマ高地もそういう場所です。そこに設置されたアルマ望遠鏡は、遠い銀河を含む様々な天体から届くミリ波からサブミリ波を観測するための施設です。じつは、アタカマ高地よりもさらに乾燥している場所が南極なのです。気温が低いせいで、大気中の水蒸気がとても少ないからです。

 

 新田さんは、その南極でのテラヘルツ望遠鏡の建設を目指す筑波大学宇宙観測研究室チームの一員として、望遠鏡の開発にあたっています。子供の頃から望遠鏡で星を観察してきた新田さんは、宇宙観測にあこがれて研究室を訪れました。するとそこではメンバーが、じつに楽しそうに、より遠い宇宙を観測するための装置開発に励んでいました。自分たちで開発した装置で宇宙を観測する。新田さんは迷わず同研究室を志願しました。そしてそこで出合ったのが、中井直正教授が立ち上げた「南極10m級テラヘルツ望遠鏡計画」だったのです。


 マウナケア山山頂やアタカマ高地も空気が澄んで乾燥していますが、テラヘルツ波の観測は困難です。南極、それも内陸部高地はさらに乾燥しているため、地上で唯一、高感度なテラヘルツ波の観測が可能な場所なのです。しかも、望遠鏡建設予定地である標高3,260mのドームC基地(フランスとイタリアが共同運用)は、年間の晴天率が8割もあります。そこでテラヘルツ波の観測ができれば、宇宙のはるかかなたにある銀河の発見も夢ではありません。はるか遠いということは、銀河の起源に迫るほどの、できたてに近い銀河を意味します。

 この遠大な計画で新田さんに課せられたミッションは、テラヘルツ帯の電磁波を検出するための電波カメラの開発です。それは超伝導検出器を用いたカメラで、ヘリウムガスを利用して0.1ケルビン(0ケルビンは絶対零度で-273.15℃、0.1ケルビンは-273.05℃)に冷やして使用します。電波カメラは、大きさ約1 mmの検出器を、たくさん並べたものになります。6年後に望遠鏡を現地に設置するのが当面の目標です。新田さんは、観測器の開発が楽しくてしょうがないと語ります。南極の望遠鏡は、宇宙のどんな姿を見せてくれるのでしょう。

 開発中の電波カメラ。ステンレス製の筒の中にレンズなどの光学部品や、超伝導検出器が入っている。
超伝導検出器の温度は、ヘリウムガスを利用することで0.1 ケルビンまで冷却される。

 超伝導検出器(2素子)の顕微鏡画像。H型の構造がアンテナ、メアンダ状の(蛇行した)部分が検出器であり、
1素子の大きさは約1 mmとなっている。明るい場所はアルミニウムの薄膜、暗い部分はシリコンの基板が見えている。

(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)


(2016.12.22更新)